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はぁ、常陸くんってば、意外に面白い人なんだ~。
知らなかった。
そんなことを思いながら、窓から外の景色をとりとめもなく眺める。
常陸くんとは、先ほどの駅で別れた。何かそこに親戚がいるらしい。
私の方は、というと、もう少しある。景色はどんどんと山や森が深くなっていく感じだ。いつも見て思うけど、この景色は結構すきだ。トンネルを抜けると、別世界が広がっていましたってね。
うん、少し気がまぎれた。
「常陸君に感謝!」
一言つぶやいて、目を閉じる。慣れない事をすると、人間疲れるものですなぁ。
でも乗り過ごすのは嫌なので、すぐに目を開けた。
お母さんたちは、今頃どうしているだろう?
手紙を見ただろうか?
「せいぜい、慌てたらいいんだ」
……はぁ。子供っぽいことを思っている。
でも、だって、よくよく考えてみれば、お母さんたちが同時に存在したことは今までなかったし、いくら何でも、私に気づかれないなんて、ありえないだろう。ありえちゃったってことは、二人が消極的にしろ積極的にしろ私から隠そうとしていたってことだ。
そうかんがえると、また腹が立ってきた。
いじめか?! これはいじめなのか?!
はぁ。どうでもいいけど、何か悲しくなってきた。
私はあの間抜けそうな母たちに少なくても十年以上はだまされていたわけで。
理由なんて知らないけど、それってかなり酷いこと。
二人いるなんて反則だし。
そもそも、どっちが生んだかわかんないってどうよ……。
それに、結婚は? お父さん、二人と結婚したんデスカ?
ありえねぇ。大昔の日本じゃないんだから! 一夫多妻制とか禁止だから!
「はぁ……」
謎は尽きない。っていうか、思考もグルグルしている。
太陽は、空高く上っていた。
思えば、私は母さんたちの名前すら知らないんだ。
呼ぶ必要がないから、知らない。
そんな悲しいことってあるだろうか。
悲しい? そんなんじゃない。
どちらかって言うと、憤りだ。
何で教えないんだ、あのあほ面母親たちは!
トンネルをまた一つ抜けて、アナウンスが入る。
次の駅で、私は降りる。
そこが目的の町だ。