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我が家の不思議な母親たち  作者: 天野きつね
第二話 只今絶賛家出中
8/17

2-2

 いつもは二人で乗っていた新幹線に、今日は私一人で乗る。

 っていうか、もう一人はこういうときにどうしていたんでしょう。謎だ。

 こっそり近くに乗っていたんだろうか?

 じゃあ、お母さんってば私に頼まなくてもチケット取れるじゃん! うわぁ、だまされた! ひどい! こういうのって、普通は親がやるだろ!

 なんだか、お母さんズのことを考えていらいらとしてしまった。はぁ、ダメだこりゃ。

 家出でもすれば冷静になれるかと思ったんだけど、全然冷静じゃあありマセン。

「考えるのよそう……」

 小休止。でも、他にする事がない。

「ひまだー」

 いつもだったら、こういうときにはお母さんとしりとりしたり、しゃべったり、トランプしたり、お弁当食べたりしていたんだけどなぁ……。

 もしかして、途中で席を立ったときに、入れ替わってたりした? う、それってしりとりとかだと詐欺だ! 

「…………」

 だめでした。っていうか、私ってば、お母さんとの思い出しか思い出せないわけ? ほら、こういう時は、カッコいい人とか、気になる人とかを友達としゃべ――れないんだった。友達はここにいないし。初恋もまだだし。

 私は、窓際の席だったのをいい事に、窓の景色を意味もなく眺めながら、やっとこさ母さんたち以外のことを考え始めた。よしよし。

「カッコいい人、ねぇ……」

 とくにぴんとこないよ、美香。

ちなみに、美香には好きな人がいるらしい。弓道部の島根先輩だ。島根先輩は、弓道部一の弓の名手(美香談)らしく、カッコいいらしい。まあ、確かに顔は悪くなかったけど、あれは私の好みじゃないんだよなぁ……。

同じく弓道部のクラスメイトで、常陸ひたち 悠木ゆうきって奴もいて、これもカッコいい。女子は皆騒いでいる。まあ、別にピンとはこないんだけどねぇ……。

思えば、私ってば全然青春とかしてないじゃん。

 はぁ、乙女失格だわ……

 と可愛らしく心の中で思ってみたが、ちょっとむなしい。


 そのうち、うつらうつらしていてしまった。


「あれ? 鎖河?」


「えっ? うわ?! ハイ、何でしょうッ?」

 思いがけず名前を呼ばれて、私は思わず直立不動の体勢をとった。

 っていうか、こんな所で名前を呼ぶ人ってダレ?

 全然心辺りがないんですけど。

「い、いや、立たなくていいよ、べつに」


 え?


 そこにいたのは、何と……


「え、えぇぇぇえええええ?! うっそ、常陸くん?!」


 噂をすればなんとやら、でした。

 なんか、くすくす笑ってマス。何かとぉーってもハズカシイです、はい。

「はい、常陸ですけど……鎖河って、おもしろ……ッ」

 常陸くんってば、笑いすぎ。

 ん? っていうか、何かイメージが違う。でも、何だろう?

 私は、座りながら、常陸くんをじっと見た。

 髪は、いつもと変わらないし、顔も……って当たり前か、これは。

 あ。

 服だ。あと、雰囲気も。

 いつもは制服を着ているし、雰囲気も「優等生!」という感じの真面目ちゃんなんだが、今日はなんかそこら辺にいそうな兄ちゃん……つまり、結構おしゃれな格好をしていた。それから、真面目な雰囲気は何か明るさが加わったっていうか……。と、とにかく何か違う! いつもの常陸くんじゃない! うぎゃ。

「こ、コンニチワ」

 改めて挨拶。すると更に笑われました。意外に酷い奴です、常陸くん。

「ああ、ごめんごめん」

 やっと笑い終えた常陸くん。

「それで、えーと、なんでここにいるんですか、常陸くん」

「悠木でいいよ、鎖河。皆そう呼んでるし」

 いや、無理だろ。話したこともまれなのに。っていうか、何でこんなにフレンドリーなんだ、この人は。


 ……はっ! もしや、この人も双子……!


 って、馬鹿か私は! んな偶然、そうそうあるわけないだろう!

 そして、チケットをちらりと見て、座席を見て、そして私の隣に座る。ちなみに、私が取った席は、指定席でした。ここは指定席エリアです。

 チケットの座席が隣だったのね。とっても奇蹟なのね。

 ありえないだろ、こんな偶然! きっと誰かの陰謀だ!

 父さんか?! 父さんの陰謀なのか?!

「俺、親戚の家にいくからさ、それで。――鎖河は?」

 そう聞かれて、私の表情は固まった。

 さ、さすがに「家出です」とはいえないっ!

「え、えーとね、お、お墓参り!」

 間違ってはいない。

「へぇ、何処まで?」

 にこにこ。

 隣で笑顔でそんなことを言われても……

 きっと、常陸くんはそうやって女の子のハートを掴んでいるんだネ。

 でも今の私じゃあ、ちょっと厳しい。

 答えるのをためらっていたが、相変わらずニコニコしていたので、仕方なく降りる駅名を言う。

 すると常陸くんは、少しだけ眉をひそめた。

「あそこに行くの?」

「え? あ、うん。――なにかまずいことでも?」

「いや……。なんでもない。こっちのこと。――で? どうして一人で?」

 あくまでそれを追及しますか、あなたは。

 私は内心冷や汗を流しながら、

「お、お母さんたちが、仕事で忙しいから。今年は、一人で行くの!」

 ふぅ。これならまあ、いいだろう。

「へぇ。でも、今はお盆じゃないよね?」

 もしもーし?! 何故にそんなにしつこいの、常陸くん。

 この人意外にもてないかも。しつこい男は嫌われるのだ!

 と、そんな事は言えるはずもなく。

「えっと。お盆は込んでるから! 特に大きな理由はないよ」

 常陸くん、とっても笑顔全開。

「そっか。――あ、ところでさ」

 ふぅ、なんとか回避成功。

 話はそれて、学校のことやらなんやらをしゃべった。

 常陸くんとこんなに長くしゃべったとか言ったら、クラスの女子半分以上ににらまれるなぁ~、とか思っちゃう余裕も出来た。

 ところで。

 女子にあんなに騒がれている常陸くんにも、好きな人とかいるのかなぁ?

 まだ、誰かと付き合ってるなんて話、聞いたことはないんだけどね。

 同世代の子の青春状況を知りたい……。

 う、でも、聞くのはやっぱりちょっと気まずいか。


「ところでさ、鎖河って、好きな人とかいるの? あ、もしかしてもう彼氏いるとか?」


 あのぉおおおおおッ?! もしもーし?! あなた、何でそんなに気軽に聞いちゃってイルンデスカ?

 この人って、絶対双子だ! これは私の知っている常陸くんではなぁあああい!

 それか二重人格の人だ! 大変だ!

「い、いないよそんなの!」

 思わず声が大きくなってしまった。

「そう? 鎖河って結構もてるから、もういるのかと思った」

 にこにこ。

 この人の笑顔って、邪気がないんだよなぁ。

「そ、それはこっちのセリフだよ。常陸くんこそ、好きな人とか彼女とかいないの?」

 一瞬だけ、常陸くんの笑みが凍った。

 え? 何で? 何かまずいこと言った? 私。

 でもでも! 自分から話題を振ってきたんだから、問題ないよね?

 常陸くんは、少し寂しげなような顔を赤らめているよな悲しそうな……、と、とにかくわけのわからない顔をして、ふっと笑った。

「いるよ」

「えぇえええええええッ? 本当? ダレ? ダレなの?」

 吃驚して私が聞いた。やっぱりいるんだ。うわぁ、すげぇ。

 とっても気になる。

 だってだ、これは特ダネだ。常陸ファンの人たちに知らせるべきだ!

 あ、それはまずいか。嫉妬に狂った女ほど恐い者はないし。

 常陸君は、にこ、と笑った。

「気になる?」

 それはもう。もちろんですとも。

 私は勢いよくうなずいた。

 答えを期待して、私はじーっと常陸くんを見る。


 じぃ――――――…………


 常陸くんは、顔を赤らめて、ふいっと顔を背けた。

 あれ? ああ、やっぱり常陸くんでも好きな人のことを考えると顔を赤くするんだなぁ……と、変なところで妙に感心してしまう。何かこう、弓道部では冷静沈着ってイメージが強いから。

「……教えない」

 ちぇっ。教えてくれないのか。ま、当たり前かぁ。私の口だって結構軽いしね。

 とっても気になるところだったんだけど。

 ああ、でも、こう、『青春』って感じ! 最高だね。


 それからも、世間話に花を咲かせながら、新幹線は行く。




 父さん……

 あ、やっぱいいや。 

 なんでもない。

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