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結局、夜空の父は答えてはくれなかった。
朝。私は恐る恐るリビングの扉を開ける。
「!!」
「「さーちゃん!! おはよう!」」
リビングの中に一歩入った途端、両脇から二人のお母さんに抱きつかれた。
「苦しい! 離れろ!」
そう叫ぶと、私を解放してくれたが、途端に潤んだ瞳でこちらを見てくる。
「さーちゃんってばひどいわ」
「どうしてこんなに口がわるくなっちゃったの?」
「単なるスキンシップよ」
「スキンシップは大事なのよ」
かわるがわるしゃべる母さんズ。正直鬱陶しい。
「スキンシップにも限度があるッ」
私はバシッと言って、踵を返した。リビングから脱出、自分の部屋へと帰還。
「はぁ……」
頭の中がグルグルとしている。これが混乱ってやつでしょうか。混乱を混乱と認識した事がないし、そもそも混乱するような事態に陥った事がないのでわかりマセン。
取り敢えず、脳内会議の結果(嘘だけど)、一刻も早くこの家を出ることが最重要事項だということになった。
私は、カバンを持って、玄関まで急ぎ足で歩く。リビングから二つの顔がのぞいて、目を潤ませていたが、ひとまず無視。気にしていたらきっと学校へ行けないに違いない。
「さーちゃん、どこ行くの?」
「まさか、家出?」
母さんAと母さんBが顔だけリビングの扉からこちらへ向けて言った。
「学校です」
私はぴしゃりと言い放つと、扉を開けて、家を出た。
バタンッ!
う、わ……。予想以上に大きな音が出てしまった。別に怒ってるわけじゃないのに……。
あれ? 怒っているのかな?
自分が怒っているのかさえ、よくわからない。何だかもやもやした物体が胸を圧迫しているかのようだ。おお、それってミステリー。
しばらくしまった扉に寄りかかり、息を整える。というか、精神を整える?
「さーちゃんってば、怒ってた?」
「さーちゃん、帰ってこなかったらどうしよう?」
扉越しに、お母さん二人の声がする。
取り敢えず帰ってくるから安心していいッス、母さんAとB。
あんまり金がないから。
目指すは学校。全ては着いてから考えよう。
「朝食、食べ忘れちゃったなぁ……。お弁当も忘れているし」
ぐー……
私は、お腹で主張する虫を確認して、ため息混じりに歩き出した。
ご飯食べるだけのお金、持ってたかなぁ……?