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我が家の不思議な母親たち  作者: 天野きつね
第一話 母さん分裂期
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1-2

「さーちゃん? どうしたの?」

「元気ないわねぇ。恋煩いかしら?」

「違うよッ!」

 二人のお母さんを目の前に、取り敢えず私は突っ込んでおいた。

 さて、これはどういうことだろう……。

「おかーさん……」

「「なぁに、さーちゃん?」」

 お母さんズが同時に言う。


「いつの間に分裂しちゃったんデスカ?!」


「…………」

「…………」

 お母さんAとお母さんBが、見事なシンメトリーで同時に互いの顔を見る。


 ぷっ……!


 そして、同時に噴出した。

「え? え? 何で? ここって笑うところ?!」

 二人は、笑いながら私を見た。

「だってぇ、さーちゃんてば、面白いこというんだもの」

 と、右のお母さん。

「さーちゃんてば、面白いわ! 発想が素敵」

 と、左のお母さん。

「「分裂なんて、してないわ」」

 左右同時にお母さん。

 そして、くすくすと笑いながら、私を家に上げる。

「え? ええ? なんなのーッ?!」

 私は叫びながら、抵抗するのも忘れて考える。何が起きているんだぁああああッ?!

「はい、さーちゃん」

「座ってー」

 気がつけば、リビングのソファーに座らされている。

 ああ、何だかくらくらする。お母さんが二人。鏡に横から半分だけ体を出している気分。

「えーっと……分裂じゃないなら、トッペルゲンガー?」

 取り敢えず何かしゃべらないと理性が保てなくなりそうで、思いついたことを言ってみた。言ってから、ありえないことだと気づく。

 案の定、お母さん達は笑い出した。

「違うわよ、さーちゃん」

「さーちゃんってば、かわいいー!」

 そして、両脇から同時に抱きつかれた。

「だーっ! 苦しいからやめてってば!」

 私は思わず振り払う。途端に、何だか懐かしい気分に襲われた。これってデジャビュ?

 何となく、嫌な予感。私の勘が正しければ、次に来るのは……

「しくしく。ひどいわぁ、さーちゃん」

「そうよー。スキンシップは大事なのよー」

 かーさんズ。泣かないでください。

「鬱陶しい」

 つい、心の声が口に出る。更にしくしく泣き出した。

「うわぁん、(まさ)(ひと)さぁん」

「さーちゃんてば、反抗期みたいなのぉ」

 うわぁ、うざいかも……って、何順応しているの、私!?

 明らかに今の状態は変でしょう?! (ちなみに、雅仁とは死んだ父さんの名前だ)

「で? この状況は、どういうことなの?」

 問い詰める。取り敢えず、今の状況を把握しなければ。

「どういうこともなにも」

「どういうことかしら?」

 母親二人は、再び顔を見合わせる。きょとん、とした顔は、まあ、傍から見れば愛らしい……のかもしれない。だが、なにぶん見慣れている顔だから、鬱陶しいったらありゃしない。

「だから! 何でお母さんが二人いるのかっていうことよ! ちょっとそこに座って説明しなさいッ」

 私が怒鳴ると、母さんズはちょこん、と私の向いに正座した。これじゃあ、どっちが母親だかわかったモンじゃない。

「なんでって、さーちゃん」

「おかーさんは、前から二人だったでしょう?」

「雅仁さんがお空へ旅立つ前まではずぅっと一緒にいたじゃない」

「その後は、一日おきに一緒にいたわ」

 そして、きょとんとした顔のまま、顔を見合わせて確認しあう。

「「ねぇ?」」

 いや、『ねぇ?』って確認していてもだね……。

 私は痛くなってきた頭に手を当てつつ、もう一度聞く。

「そういう意味じゃなくて……。ああもう! お二人はどういう関係?」

「どういう関係って」

「私たちはさーちゃんのおかあさんよ」

 交互に彼女らは言う。ちなみに、どっちが私の本当のお母さんだかよくわからない。多分、どっちかがニセモノなんだろうけど……

 そのとき、同時に二人のお母さんが手を打った。


「「ああ! わかったわ! さーちゃんってば、おかーさんたちが双子だってこと、きがついていなかったのね!!」


「…………はい?」

 私は、彼女たちの言葉の意味を理解するまで、首をかしげていた。

 待つこと五秒弱。


「って、双子ぉおおおおおおッ?!」




 天におわします我が父上殿よ。

 おかーさんが双子って、どういうことですか?!

 ちょっと帰ってきて、説明しなさいッ!


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