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「さーちゃん? どうしたの?」
「元気ないわねぇ。恋煩いかしら?」
「違うよッ!」
二人のお母さんを目の前に、取り敢えず私は突っ込んでおいた。
さて、これはどういうことだろう……。
「おかーさん……」
「「なぁに、さーちゃん?」」
お母さんズが同時に言う。
「いつの間に分裂しちゃったんデスカ?!」
「…………」
「…………」
お母さんAとお母さんBが、見事なシンメトリーで同時に互いの顔を見る。
ぷっ……!
そして、同時に噴出した。
「え? え? 何で? ここって笑うところ?!」
二人は、笑いながら私を見た。
「だってぇ、さーちゃんてば、面白いこというんだもの」
と、右のお母さん。
「さーちゃんてば、面白いわ! 発想が素敵」
と、左のお母さん。
「「分裂なんて、してないわ」」
左右同時にお母さん。
そして、くすくすと笑いながら、私を家に上げる。
「え? ええ? なんなのーッ?!」
私は叫びながら、抵抗するのも忘れて考える。何が起きているんだぁああああッ?!
「はい、さーちゃん」
「座ってー」
気がつけば、リビングのソファーに座らされている。
ああ、何だかくらくらする。お母さんが二人。鏡に横から半分だけ体を出している気分。
「えーっと……分裂じゃないなら、トッペルゲンガー?」
取り敢えず何かしゃべらないと理性が保てなくなりそうで、思いついたことを言ってみた。言ってから、ありえないことだと気づく。
案の定、お母さん達は笑い出した。
「違うわよ、さーちゃん」
「さーちゃんってば、かわいいー!」
そして、両脇から同時に抱きつかれた。
「だーっ! 苦しいからやめてってば!」
私は思わず振り払う。途端に、何だか懐かしい気分に襲われた。これってデジャビュ?
何となく、嫌な予感。私の勘が正しければ、次に来るのは……
「しくしく。ひどいわぁ、さーちゃん」
「そうよー。スキンシップは大事なのよー」
かーさんズ。泣かないでください。
「鬱陶しい」
つい、心の声が口に出る。更にしくしく泣き出した。
「うわぁん、雅仁さぁん」
「さーちゃんてば、反抗期みたいなのぉ」
うわぁ、うざいかも……って、何順応しているの、私!?
明らかに今の状態は変でしょう?! (ちなみに、雅仁とは死んだ父さんの名前だ)
「で? この状況は、どういうことなの?」
問い詰める。取り敢えず、今の状況を把握しなければ。
「どういうこともなにも」
「どういうことかしら?」
母親二人は、再び顔を見合わせる。きょとん、とした顔は、まあ、傍から見れば愛らしい……のかもしれない。だが、なにぶん見慣れている顔だから、鬱陶しいったらありゃしない。
「だから! 何でお母さんが二人いるのかっていうことよ! ちょっとそこに座って説明しなさいッ」
私が怒鳴ると、母さんズはちょこん、と私の向いに正座した。これじゃあ、どっちが母親だかわかったモンじゃない。
「なんでって、さーちゃん」
「おかーさんは、前から二人だったでしょう?」
「雅仁さんがお空へ旅立つ前まではずぅっと一緒にいたじゃない」
「その後は、一日おきに一緒にいたわ」
そして、きょとんとした顔のまま、顔を見合わせて確認しあう。
「「ねぇ?」」
いや、『ねぇ?』って確認していてもだね……。
私は痛くなってきた頭に手を当てつつ、もう一度聞く。
「そういう意味じゃなくて……。ああもう! お二人はどういう関係?」
「どういう関係って」
「私たちはさーちゃんのおかあさんよ」
交互に彼女らは言う。ちなみに、どっちが私の本当のお母さんだかよくわからない。多分、どっちかがニセモノなんだろうけど……
そのとき、同時に二人のお母さんが手を打った。
「「ああ! わかったわ! さーちゃんってば、おかーさんたちが双子だってこと、きがついていなかったのね!!」
「…………はい?」
私は、彼女たちの言葉の意味を理解するまで、首をかしげていた。
待つこと五秒弱。
「って、双子ぉおおおおおおッ?!」
天におわします我が父上殿よ。
おかーさんが双子って、どういうことですか?!
ちょっと帰ってきて、説明しなさいッ!




