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「おかえりー、さーちゃん」
「おかえりー、さーちゃん」
バタン。
思わず玄関の扉を閉めてしまった。
「今の、何……?」
今は亡き天国のおとーさん。娘は大変なものを見てしまいました。たぶん。
私は、勇気をふりしぼって、もう一度ドアノブに手をかける。
願わくば、さっき私が見たものが幻覚であったことを祈りたい(いや、幻覚だったらそれはそれでかなり問題がある気がするんだが)。
ガチャ。
「もう、さーちゃんってば、何で扉を閉めちゃうのー?」
「おかーさん、今ちょっとだけ傷ついたわ。しくしく」
「――――――ッ!?」
――やっぱり、いた。
思わず、私は悲鳴をあげそうになってしまう。
だってだ。だって、こんなことって……
私は、取り敢えず目をつぶって深呼吸。落ち着くんだ、私。
取り敢えず、己の心理状況を把握。
自問自答で自己確認。
Q1.私の名前は?
A.鎖河 桜だ。
Q2.通っている学校は?
A.公立ヒガヤト中学校。ちなみに二年生のA組で、部活は廃部寸前の文芸部。
Q3.年齢と誕生日は?
A.十四歳で四月十四日生まれ・
Q4.憧れの作家は?
A.月野冬子さん。
オッケー、ここまでは大丈夫だ。私は正常。
Q5.家族構成は?
A.母と私の二人だけ。父は私が四歳の時にお空に昇った。帰る予定なし。
しかし――。
「さーちゃん? どうしたの?」
「どうしたの? さーちゃん?」
問題はそこだ。
私は母と二人だけでこの家に住んでいるはずだ。
なのに……
私は、目を開けて前を見据える。
「……おかー、さん?」
「「なぁに? さーちゃん」」
一つになった二人の声。
私の呼びかけに答えたのは、目の前にいる二人。
そして、目の前には――
お母さんが二人いました。
私は、思わずくらっと倒れそうな気持ちになった。
天国の親愛なる父上殿。大変です。
どーゆうことですかコレ。
おかーさんが分裂しちゃってるんですけど!?