4-3
夜はもう遅い。
お父さん。私は家に帰ってきました。
何だかとっても久しぶりに家に戻った気がします。
不思議ですね。
「ありがとー、ゆーきくん」
「ゆーきくんってば紳士っ」
陽菜母さんと月菜母さんが順番に悠木君にお礼を言った。
「いえ」
悠木君は、紳士に首を振った。やっぱりすばらしい。
そこに、なにか企んだ笑顔の双子のお母さんが悠木君を手招きした。
「はい?」
悠木君が二人のお母さんに近づく。私も一緒に近づこうとしたら、
「「さーちゃんはダメ!」」
といわれてしまった。まるっきり子供だ。なんだこれは。
私は仕方なく、少し離れたところで待つ。
なにやら二人が彼に話している。悠木君は、何だかとっても驚いていて、それから二人から何かを受け取っていた。心なしか、顔が赤い。
何を言ったんだ、あの人たちは。
私が呆れて見ていると、何故か悠木君だけがこちらに来た。その向こうで笑っているお母さんたちが何だか非常に気に入らない。アレは絶対何か企んでいる顔だ。
「あのさ、桜」
悠木君は、視線を若干斜め下にずらしている。
「な、なんでしょうか?」
私は思わず丁寧に答えた。改まってどうしたんだろう?
「手、出して」
「手?」
私は、言われたとおりに、両手を手のひらを上にして出す。
「そ、そうじゃなくて。片手でいいよ。それから、逆」
そうだったのか。私はちょっと恥ずかしくなって、
「ご、ごめんっ」
慌てて片手を下ろして、手をひっくりがえした。
「うー……」
悠木君は、何だか思い悩んでいるようだ。お母さん、何か悠木君を困らせるようなことを言ったんですか?
「どうしたの?」
私が聞くと、悠木君は思いっきり首を振った。
「なんでもないっ。……それより、桜。目、つぶってくれない?」
「え?」
私は首をかしげながら、目を閉じた。
なんで?
意味がわからない。
そのとき、ふっと私の手に生暖かいものが触れた。おそらくは、悠木君が私の手を取ったのだろう。それから、少し冷たいものが指にはめられた。
「……?」
私が驚いて目を開けると、そこには顔を真っ赤にした悠木君。
そして私の指には……
何故だか指輪がはまってました。
えっと、どういうことでしょう?
「あのねぇ、おめでとう!」
「それは、私たちと雅仁さんからの、プレゼントなのー」
「「家族の秘密がなくなったときの記念に」」
私は、目をしばたかせた。
「よ、よくわからないけど……。まあ、有難う」
一応お礼を言ってから、はたと思い至った。
「え? でも、それなら悠木君にやらせる必要はなかったのでは……?」
可哀想に、まだ顔が赤い。ずいぶんと怒っているようだ。
「「いいの」」
「いや、いいのって貴方たち」
「いいんだ」
悠木君が言った。顔を伏せている。
「えっと、あの、桜!」
「はいっ」
吃驚した。やっぱり怒っているんだろう。
「ま、また明日なっ。それじゃあ、おやすみ」
脱兎の如く、悠木君は去っていった。
「な、なんだったんだろう……」
私は、呆然とそれを見送った。
「にぶいわねー」
「にぶにぶねぇ」
「は?」
お母さん二人に鈍いと言われ、私はちょっと困ってしまった。
どうしてかを考えて首をかしげながら、私の家出は無事に終了したのだった。