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その後、何故かお寺でどんちゃん騒ぎが巻き起こった。
私は二人に「入れ替わり禁止」と約束させ、色々と話をして親睦を深めた。
っていうか、親子で親睦を深めるって、何だかなぁ……。
「じゃあね~とーるさん」
「さーちゃんがお世話になりましたぁ」
お母さんズは、住職さん(とおる、と言う名前らしい)に笑顔で手を振って、歩き出した。
外はもう日が翳っている。駅に着く頃には、もう真っ暗になっているだろう。
「悠木。お前、桜ちゃんたちを送っていくついでにもう帰りなさい」
住職さんは、どん、と常陸君の背中を押した。
「オレの帰宅はついでなのかよっ」
「当たり前だろう? 紳士たるもの、女性を優先しなくちゃな」
「……わかったよ。――あ、別に送っていくのが嫌だとか、そういうわけじゃないからな、桜!」
「え? あ、うん」
急にそういわれて、私は吃驚して頷く。悠木君……やっぱり名前で呼ばれるのには慣れません。何だか吃驚しますよ。
悠木君は、私の間抜けな返事を聞いて明後日の方を向いて口元を押さえていた。
気分でも悪くなったのだろうか?
そう思って声をかけようとしたが、悠木君はすぐにこちらを向いて、さわやかな笑顔で
「じゃあ、行きましょうか」
と歩き出した。
「お世話になりました」
私は住職さんに再びお礼を言って、その後をついていこうとする。
「……?」
お母さんたちが、なにやらこそこそと頭を寄せ合って話をしていた。
何を話しているんですか、あなたたち……
「お母さんたち? 帰るよー」
私がそう声をかけると、お母さんたちはそれぞれ「はぁいっ」と返事をして、歩き出す。悪戯がばれそうになった子供みたいだ。
これじゃあ、何だかどっちが親だかワカリマセン。
はぁ、まったく、本当にこの人たちは私の親なんだろうか……。
「ゆーきくん。ゆーきくんは、高校でどんな部活をしているのかしら?」
「さーちゃんってばね、文芸部に入っているのよ?」
「ゆーきくんも、入らない? 文芸部に」
お母さん達は、帰る道すがら、そんなことを言い出した。
「ちょっと待て」
私がストップをかける。
「何でお母さんたちが文芸部の部員を勧誘しているのよ?」
母さんたちは、とぼけた笑顔をして、
「だってぇ、文芸部、さーちゃん一人じゃなぁい」
「寂しいかなぁって、おもったの~」
「いやいやいや、それって余計なお世話ですからっ! それに、常陸く……悠木くんは、弓道部の希望の星だからっ」
私が必死に止める。全くこの親たちは、何を考えているのやら……
「……はいろっかな、文芸部」
ぼそっと隣で声が聞こえました。
「えぇええええっ?」
げ、幻聴? 今、隣から「入ろうかな」とか聞こえた気がするんですけど。
驚いて横を見ると、悠木君が微笑んでこちらを見ていました。何だか見ていられないまぶしさデス。
「文芸部って、兼部可?」
あ。何だか聞き間違えジャナイ予感。
「可だけど……って、入るの? え、でも、お母さんたちの言うことなんて、全くもって無視していいんだよ? それにさっきも言ったとおり、私しか部員がいない崩壊寸前の部活で……ッ」
「入る。弓道は好きだけど、本も好きだし。ただ、あんまり出席は出来ないけど、それでよかったら……」
「悠木君……」
何ていい人なんだろう、悠木君は。
ちょっと感動。
一人は気楽だけど、二人だときっと楽しい。
「ありがとう~っ! 嬉しいよ」
私が素直に感謝の意を伝えると、悠木君も嬉しそうに笑った。
「うん」
何てまぶしい笑顔なんだ……
「あ、でも、活動はそんなに忙しくないから、気が向いた時だけでいいからねっ?」
それに私は慌てて付け足した。
「うん」
悠木君は、微笑んでいた。
「…………」
その笑顔は、あまりにまぶしくて……
思わず私は見とれてしまった。
「さーちゃんっ」
「ゆーきくんっ」
「「駅についたわよ~」」
私はハッとして顔をそらした。
ぶしつけに見すぎだよ、自分ッ!
恥ずかしくてちょっと顔を見られない。
「ご、ゴメン」
「う、うん」
そんな私たちを、お母さんたちが笑顔で見ていた。
そして私たちは、帰りの電車に乗った。