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我が家の不思議な母親たち  作者: 天野きつね
第四話 入れ替わり禁止令
14/17

4-1

「きゃーっ、ゆーきちゃんじゃないぃいっ!」

「ひさしぶりぃー! かっこよく育ったわねぇ」


 …………。

 ちょっと遠くを見る私。

 母たちの開口一番がこれでした。

 酷くないですか。

 娘が目の前にいるのにもかかわらず、私の隣にいる常陸君に先に声をかけるなんて……。

 そして母さんAとB、常陸君に抱きつきました。

「…………」

 私は無言。

 常陸君は、丁寧に挨拶をする。

「こ、こんにちは。陽菜さんと月菜さん。お久しぶりです」

 グレていいですか……。

「で、あの……」

 ちらりと、こちらを上目遣いで常陸君がみた。

「桜、さんが……」

 そう言われて、母さんズはやっとこちらを見た。

「あ、さーちゃん!」

「さーちゃんってば、家出するなんて。お母さん、悲しいわ」

 ぶち。


「ちょおおおおっとお前ら、そこに直れッ」


 ふっ、さようなら、私の忍耐力。

 この母たちの前では、そんなもの役に立ちません。

「あのねぇ、仮にも母なら少なくとも私の方を優先するべきじゃないの?! っていうか言いたい事が一杯あるからそこに直れ! 今すぐ正座」

 母たち、吃驚。

 慌てて姿勢を正す。

「よろしい」

 ここは常陸君の家の玄関先だが、そんなことを気になんかしない。

「ちょっと、何で今まで黙ってたのよ、二人だってこと!」

 まず尋問を開始。

「だってぇ、気がつかなかったなんて知らなかったしぃ。さーちゃん、お母さんが二人いたら大変でしょう?」

「そーよねぇ。仕事もしなきゃいけなかったしぃ」

「まあ、ちょっとは隠してみようかなぁとか」

「悪戯心を出したのは確かだけどねぇ」

「うるさいっ! 次っ。何で今更になって二人になったのよッ?!」

「それはぁ、雅仁さんと」

「約束、したのよぅ」

 私は眉をひそめた。

「約束?」

「そう、約束」

「十年くらい経ったら、隠し事はやめなさいって」

「い、意味わかんねぇ、それっ! それで、出てきたの?」

「そうなのよぉ」

 い、意味がわからない。っていうか、お父さん、何でそんなことを言ったんですか? 二人の……じゃなかった、三人の間に何があったの?

「あのね、さーちゃん」

 母さんAが、私に問いかけてくる。

「さーちゃんがね、怒るのも無理ないと思うの」

「考えてみたら、私たちも隠していたの、悪いわよね」


「「ごめんなさいっ」」


「え……」

 虚をつかれて、私はちょっと呆然とした。

 怒るに怒れない……

 っていうか、私の怒りのやり場はどうすればいいのよ……

「いーわよ、別に。それは」

 結局、ちょっと視線をずらして、そういった。

「「さーちゃん……っ」」

 うるるっ

 嫌な予感がよぎった次の瞬間、お母さんたちは号泣しながら飛びついてきた。

「さーちゃぁああああんっ」

「だぁあああああいすきよぉっ」


「だぁああっ! うっとうしい、離れろ母さんズ!」


 私は思わず怒鳴る。

 しぶしぶ、母さんたちは離れる。

 私は、母さんたちをそれぞれ指差して、

「陽菜母さんッ、月菜母さんッ!」

 じっと二人を見る。

 あ、あってるかな?

 二人は目をまん丸に開いて、ゆっくりと互いを見た。


「「どうしてわかったの?」」


 食べようとしたケーキが、実はアイスだったってぐらい驚いた顔をして、私を見る。

「それは……」

「あ、わかった!」

「わかったわ!」

「え?」

 まだ言ってない。でもわかったのか?

 母さんたちはとろけそうな明るい笑顔を浮かべて、


「「愛の力ねっ!!」」


 私は思わず脱力してへなへなと座り込んでしまった。

「……なんでそうなる……」

 そんな私に、常陸君が心配そうな顔を向けて、

「大丈夫か、桜?」

「ダメかも私……」

「…………。ま、まあ、何かあったら相談とか、愚痴とか、付き合うよ」

ああ、何て優しい人なんだ!

「ありがとう~、常陸君」

 常陸君はいい人だぁ……。

 ……ん? っていうか、呼び捨て?

 まあ、幼馴染だったらしいし、おぼろげながら記憶がないわけでもない。曖昧だけれど。私はまあいっかと頷く。

 常陸君は、少し視線をそらして、

「悠木でいいってば。幼馴染だったんだし。オレも名前で呼ぶよ」

 それもそうか……。そうなのか?

 てか、呼んでるじゃんアナタは。すでに。

「悠木君……?」

 悠木君は、照れるような顔をして笑った。

「何?」

「え? あ、呼んでみただけ……です」

 私は思わず敬語になってしまう。ちょっと気恥ずかしい。

「そっか」

 悠木君、何だか笑顔が輝いてますよアナタ。

 お母さんたちは、まだ、

「愛の力ね?」

「愛の力でしょ?」

 といい続けていた。

「違うよ……」

 私は力なく否定する。

「ええーっ」

「じゃあ、どうしてわかったのぉ?」

 私は立ち上がりながら答えてやる。

「住職さんに写真で教えてもらったの」

 そう、昨日のうちに、写真を見せてもらって、教えてもらったのだ。ちなみに、住職さんは写真の裏にどちらがどちらかを書いてあった。やっぱり見分けるのは難しいらしい。

 再び、お母さんたちは顔を見合わせた。


「「やっぱり愛の力ねっ!」」


「へっ?」

 母さんたちは、二人で頷きあっている。何か納得しているらしい。

「だーかーらっ! 何でそうなるのよ!?」

 二人は、優しい笑顔を私へ向けた。

「だって、写真で見たからといってもー」

「そう簡単に見分けられるものではないのよ?」

 その笑顔は、なんだか、“母”な感じで……

 ああ、とぼけていて天然で鬱陶しい人たちだけど、それでも母親なんだな、と思った。

 でも、その笑顔はすぐにへにゃる。


「「さーちゃん、だぁいすきっ!」」


「わぁっ?!」

 私は、両脇から抱きつかれてよろめいた。


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