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結局、私はお風呂までお借りして、家出というよりも単なるお泊りな感じになってしまった。だって、家出って言ったら、野宿! でしょう。(多いに間違っている)
まあ、細かいところは置いておいて。
寝る前に、私と常陸くんと住職さんは、三人でちゃぶ台を囲んで、コーラを飲んでいた。
「……」
「でさ、親父。母さんがさー……」
「そうかー。おじさんは……」
なんでだろう……。
い、意味がわからない!
何故に寝る前に談話? ってか、コーラで乾杯したし。
「そうそう、桜ちゃんは、だんだん月菜さんと陽菜さんにそっくりになっていくねぇ」
出し抜けに、住職さんは、私の顔を見てニコニコと言った。
ぶはぁーッ!
私は思わず噴出してしまう。そして撃沈。
こ、ここにもひとり、事情を知っている方がいマシタ。
どうしてっすか?
なんか私、悪いことでもしたでしょうか?
「そそそそそそうでしょうか……っ」
「うん。ああ、若い頃を思い出すよ。君のお母さんはね、ちまたじゃあ『月と太陽の姫たち』って呼ばれていたんだ」
そ、そんな大層な名前で呼ばれていたんですか、お母さんズ。
今の様子からはまったく想像できません。
そりゃあ、確かに美人かもって思うけど……。
「私も彼女たちにお熱だったもんさ」
はぁ、と懐かしげに語る住職さんA。
「おい、親父……」
呆れたように、そんな親父を見る少年B。
「うるさいな、昔のことだからいいだろう?
ついでに言えば、君のお父さん、雅仁とも親友だったんだ」
住職さんは話し続ける。
彼らが学生だった時、母さんたちは当然のように告白されまくっていたらしい。
そのときに母さんたちが出したのが、見分けるテスト。彼女らのどちらかをちゃんと見分けられたら、テストに合格で付き合えるって事になった。
今もそうだけど、母さんたちは見分けがほとんどつかない。(私の場合、どちらがどちらかを知らないから更に無理だ)
で、誰も見分けがつかなかったんだそうな。まるで漫画みたいじゃないか……。
住職さんも父さんもチャレンジ。
で、父さんが合格したらしい。
見事二人を見分けたから、付き合う事になったんだけど……。
実は、父さんは告白したわけじゃなく、ただ単に母さんたちが気まぐれで出したその問題に正解してしまっただけらしい。だが、それ以来お母さんたちが父さんに恋をした。
「うん、嫉妬の嵐だったね。でも、月菜さんと陽菜さんは、二人で雅仁にアタックしてた。同時に。その一生懸命さが通じたのか、雅仁がうなずいた」
そこで、少しだけ住職さんが気色ばむ。
「でね、どうしたと思う? あいつったらさぁ、二人と同時に同棲し始めたんだよ! 信じられるかい? 普通は一人でしょう。まあ、三人の苗字がたまたま同じ『鎖河』だったから、戸籍上は結婚してない事になっているみたいだけど……。結婚式挙げて、両手に花! まさにそんな感じだった」
「へ、へえ……」
私は呆れる。というか、呆れるしかない。そうだったんだ……。
「……って、それって、住職さんは、私の親と親友だったってことですか!?」
「ん? そうだよ」
ええぇッ?! し、知らなかった。今更だけど驚いた。今まで、そんなそぶりはなかった気がする。っていうか、私ってば気づくのが遅い……。今の話の流れで何故ここで改めて気がつくんだ?
「ああ、もしかして知らなかったのかい? ほら、悠木とも、小さい頃よく遊んでいたんだよ」
「ええっ!?」
き、気がつかなかった、それにも。そうだったのか……。
何か、ここ何日かで、新発見が多すぎる。お父さんのばかーっ!
「ご、ごめんっ」
とりあえず常陸くんに謝った。
常陸くんは苦笑しながら、
「いいよ。多分そうだろうと思っていたんだ」
って、常陸くんは私に気がついていたってことですか……?
うん、いろいろとよくわかった。
うん?
ちょっと待て。
「ッてことは、ですよ……? もしかして、これって母さんたちの差し金ですか?」
知り合いってことは、もしかしたら母さんたちから二人に連絡があったかもしれないってことで。
それだったら、私が家出中だってバレバレで。
ついでに事情を説明してほしいって頼まれたっつう展開ですか?
住職さんは、にっこり笑った。
「あ、ばれちゃったか」
「えぇえええええっ!」
何かショックだぞ。
住職さんは、真剣な顔で、私に語りかけてくる。
「でもね、君のお母さんたちをあんまり責めないで欲しいんだ。結婚していないっていったでしょう? やっぱり、お母さんが二人いるというのは、変だから、あんまり桜ちゃんが困らないようにっていう思いやりからだったんだよ」
「……」
これには私は黙るしかない。
思いやり、ねぇ。
なら、どうして突然二人が現れたのかな?
私は首をかしげて、それから……
明日、直接聞いてみようと思った。
心の整理なんて、ついたかどうかわからないけど、わからないことは直接聞こう。
何ていうか、ちょっと落ち着いた。
やっぱり、家出の意味はあったみたいだ。
お母さんが二人いるっていう事実が(これは事実なんだ)、胸の中で馴染んだみたい。
うーん、例えるなら、始めは拒絶反応を起こしていたナメクジを毎日見るうちに見慣れて平気になったようなものだろうか。
お父さん。
娘は何だか事実に慣れました。まだ怒っていますが。
とりあえず、お休みなさい。