3-2
ゆるゆると、光がある。
ふわふわと、ぬくもりが感じられる。
私はだれ?
貴方はだれ?
ああ、ここは夢だ。
――桜。
誰かの呼ぶ声。
お父さんの呼ぶ声。
本当に、お父さん。答えてくれるの?
――桜。
お母さんが二人もいるなんて、聞いていない。
そういえば、お父さんとお母さんたちの馴れ初めも知らないし、そもそもお母さんたちの名前もわからない。
どうすればいいの?
どうすればいいの?
どうすれば、私は……
「おい、鎖河! 大丈夫か? 鎖河ッ」
私はがくがくと肩を揺さぶられて、目を覚ました。
「へっ?! な、何?!」
私が飛び起きてそう言うと、肩をゆすっていた相手は、ホッとしたように肩から手を離した。
「だ、誰?!」
あたりはもう暗い。少し先のお寺には、もう灯りあった。
そして、目の前にも小さな懐中電灯があって、私と、もう一人を照らしていた。
目の前にいたのは、
「へ? 常陸くん?! な、何でこんなところに?! どうして?! え? もしかして常陸君も双子なの!?」
「は? 双子?」
常陸君が、目を丸くした。でも、すぐに微笑んで(だと思う。暗くてよく見えないけど)、
「よかった。墓の前で鎖河が寝ているから、びっくりしたよ。大丈夫?」
「う、うん。大丈夫、です」
うう。ハズカシイ。よりによって、何でお墓の前なんかで居眠りしてるんだ、私――ッ!?
も、もうだめだ。オヨメにいけない……。
「とりあえず、うちにきなよ。ここじゃ、冷えるだろ?」
「え?」
私が首をかしげると同時に、私は常陸くんに手をひかれて歩き出していた。
「え? ええ?」
私が驚きの声を上げているのにもかまわず、常陸くんはお寺までやってきた。(って、たかだか数十メートルだけど)
「ここ、俺の家なんだよ。高校は一人暮らししているんだ。週末はよく帰っているんだけど、今日は親戚の家によってから来た」
「え? そうだったの?!」
何て偶然。ワンダフォー!
ガラッ。
そんなふうに感心しているうちにも、私はお寺の中に入ってしまっている。
「親父、ただいま」
「おお。お帰り、悠木。……と、桜ちゃん」
一年に一度、お盆の時に会っている住職さんが出迎えてくれた。
「悠木、母さんたちは元気だったか?」
「ああ。ムカつくぐらい元気だったよ」
「そうか、それは良かった。――ああ、二人とも夕食はまだだね? こっちへいらっしゃい」
住職さんにそういわれて、私たちは夕食をいただいた。何だか、ながされている気がするぞ。
「今日はもう遅いから、泊まっていくといいよ、桜ちゃん。いくらここが田舎だからといって、犯罪者が隠れていないとは限らないからね」
「ええ? いえ、そんなお世話になるわけには……」
「でも、他にどこかあてがあるのかい?」
「……」
ない。あるわけがない。だって家出だし。
「ね?」
住職さんの笑顔。その隣に、常陸くんの笑顔。
にこにこ。にこにこ。
そっくりな、二つの笑顔。
「……お世話に、なります」
断れるはずがありませんっ。
何か、成り行きでここに泊まる事になってしまいマシタ。
お父さん……
思えば、私って結構ファザコンですね。
でも、お父さんがどういう人だったかなんて……
実は全然覚えてないんですよ。