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ぷろろーぐ
私には、小さな時に不思議な記憶がある。
――ねーねー、さーちゃん。
――さーちゃん、何であそぶ?
――それとも、何か食べる?
――さーちゃんさーちゃん、笑ってー
女性の声が、左右から聞こえるのだ。交互に。
それも、ただの女性の声ではない。私のお母さんの声なのだ。
――あそぼー、さーちゃん
――あそぼー、さーちゃん
――何がいい?
――ほら、くまちゃんですよー
右、左、右、左。
まるでステレオだ。
そんな、不思議な記憶が、今でもたまに夢になって出てくる。
お母さんが呼ぶ、さーちゃんと言う声が。
あれがなんだったのか、私は知らない。