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異形の戦士  作者: 樹 雅
外伝 ~七夕の客人~
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外伝 ~七夕の客人~ 第10話

お待たせしましたー。

外伝終了まで1日おきに更新します



 ほむらに連れられて、七夕祭りを見て回ること四日。


 回った五つの地区にある名所は、何かしらの名残りが残っていた。ほむらが言うには、力のカケラがあったとの事である。

 ほむらは相手に取られて不利だと言うが、それがどうしたと言うのか、涼にはわからなかった。


 この四日、涼は七夕の事を聞き出そうとしたが、進展は一つも無い。


わかった事はたかが知れていた。


 ほとんど何もわからないまま、涼はほむらに引張り回されていたのである。


「涼、そこの競技に出るが良い」


 移動した先でほむらは、涼を何かしらの競技に参加させていた。

 今も、スポーツチャンバラのエントリー受付を手で示している。

 顔を戻した涼は、無言で片眉を上げていた。


「ぬしは、そこそこ使えるのであろう。ならば、勝って見せよ」


 溜め息をついた涼は、エントリー受付まで足を運んで行く。拒否しても同じだと言う事は、この四日で良くわかった。

 記入をしようとペンをつけた時、横からほむらが口を出してきた。


「そこじゃないわ。上級者用よ」


 ペンを持ったまま涼の動きが止まる。


 口調が違う事に驚いて横を向くと、ほむらが小首を傾げていた。


「どうしたの? そんなに驚いた顔して」


 口を開けた涼ではあったが、言うべき言葉を見つけられずに口を閉じてしまう。


 そこに、嬉しそうな声が聞こえてきた。


「のぞみ」


 振り返った二人に、三人の男女が近づいて来る。


「うわ、キレイな紅ね……」


 にこにこと嬉しそうに笑う女が、ほむらの髪を見て言った。


「すまない。人違いだと言っているんだが……」


 少しかげりのある男が頭を下げている。


「瑞紀。その人は神崎じゃない」


「翔、違うわよ。のぞみよ」


 にこにことした笑顔で断言する瑞紀と呼ばれた女を、涼はぽかんと見てしまった。


 翔と呼ばれた男は、やはり困ったような顔になっている。もう一人の女は、目を細めてほむらを見ているだけで、何も言わなかった。


 その顔が硬くなっている事に涼は気がつく。


「瑞紀は桂木君とデート中?」


 そうなのと瑞紀の顔が綻んでいく、反対にぽかんとした顔で、ほむらを見てしまうのは翔だった。


「そう言うのぞみもデート中?」


「半分当たり。彼は……」


 笑ったほむらが涼を示す。


「客人の神野涼さん」


「はじめまして。私は坂原瑞紀です」


 にこにことした顔は変らずに、軽く会釈してくる瑞紀に、涼は戸惑いながらも頭を下げていた。そして、ほむらを見てしまう。


「大学の同期生で友人」


 ぞくりとした寒気が涼の背筋を駆け抜けた。


「本当に神崎なのか……」


 半信半疑な翔にほむらが笑う。


「ヒドイわ。髪の色が違ったぐらいで、あたしがわからないなんて。瑞紀、悪い事は言わないから、桂木君と別れちゃえば」


 楽しそうなほむらに、背筋が冷えてくる。


 変ったのは髪の色だけではない、瞳の色も変っているはずだった。


「い、や」


 ゆっくりと笑って答える瑞紀も楽しそうで、となりの翔は諦めたような溜め息をついている。


「そうだ。涼がエントリーするんだけど……」


 ほむらが言えば、瑞紀は笑って翔を見上げた。


「翔もエントリーしようよ」


「ああ、わかった」


 なぜとは言わずに、翔は頷いている。


「あんた、どこにエントリーしたんだ?」


「上級者、だが?」


「そうか。なら俺もそっちか……」


 諦めたような顔だった。


「?」


 首を傾げそうになる涼と、溜め息を付いてる翔だった。


「頑張って」


 女二人の声援を背に受けた涼と翔は、何とも言えない顔で互いを見てしまっていた。そして、同時に首を振ると会場へと向かう。


「なあ、あんたに聞きたいんだが……」


「涼でいい」


「じぁ、俺も翔でいい」


「で?」


 ちらりと後ろを振り返った翔が言った。


「あれは、本当に神崎なのか……」


「どうして、そう思う?」


 溜め息をついてしまう。


「あ、いやな……俺の知っている神崎とは違うような……」


 言いにくそうな翔の態度に、涼は苦笑が浮かびそうになった。


「あの髪と瞳で、神崎のぞみと言われても戸惑う……か」


「あー、いや、まあ、そうなんだ……」


 照れ隠しか、翔は頭に手をやっている。


「あいつは……」



 寒気がした理由に気がついた。



 知っていたはずではないか。



 ほむらが、のぞみに憑依した事を見ていたはずだ。人でありながら、人にあらざるものと。



 だから。



 涼を四日間、七夕祭りに付き合わせた。

 のぞみが七夕祭りの間、付き合うと言っていたから。



 だから。



 ほむらは神崎のぞみの記憶を持っている。



 つまり、それは。



 人格が違うだけで、人でもあると言う事だ。人の身体を持つ人にあらざるもの。わかっていたはずなのに、他人から気付かされると寒気がした。


「あっ、悪い。変な事を聞いた。忘れてくれ」


 黙りこんだ涼を、勘違いした翔が頭を下げていた。


「いや、いい……あいつは、のぞみだ……」


 意識せずに涼は、奥歯を噛み締めてしまう。


 知っていたはずなのに、認めたくなかっただけと気がつく。のぞみではなく、ほむらを受け入れてしまっていた事に。


 競技は翔がめったやたらに長物を振り回し、対戦相手を近づけさせなかったが、息切れで止まった瞬間に素早く接近した対戦相手に、面を打たれて一回戦で敗退した。

 続く涼は、竹刀ほどの物で対戦相手と肉薄した接近戦になり、僅差で一回戦は勝ち抜けたが、二回戦で相手の手数に負けてしまった。


 会場から戻った二人を出迎えたのは、瑞紀一人である。


「紫村と神崎は?」


「えっ?」


 尋ねられた瑞紀は、きょとんと翔を見返した。そして、あわてて左右を見る。


「あれ? どうして? さっきまで一緒にいたのに……?」


「捜す、か。そんなには離れていないだろう……」


 息を吐いた翔に、瑞紀は頷いていた。


「キミが辰巳の客人?」


 ぞくりとした寒気が、声と共に流れてくる。


 反射的に涼は声の主を振り返り、翔は瑞紀を背に入れていた。

 優しげな顔の男だったが、どこか違和感を受けてしまう。


「僕は日刈の広人。七夕の間だけど、よろしく」


「七夕の間……?」


「キミに七夕の事で話があるんだけど。今、いいかな?」


「わかった。場所を変えよう」


「そうだね。他の人には、関係の無い事だからね」


 話している間に気がついた事がある。


 広人から受ける違和感が、のぞみと名所を回った時に受けていたものと同じだった。人でありながら人ではない感覚、だがそれは、ほむらとは別のものだった。


「いいのか?」


 広人に何か感じたのか、少し硬い声で翔が問いかけてくる。


「ああ。俺が知りたい事を、知っているようだからな」


「だが……」


「行かない方がいいよ」


 翔にしがみついている瑞紀も言った。


「あの人、何か……変だよ……」


「それでもな。俺には知らないといけない事がある」


「でも……」


 ふと、涼は笑う。


 会ったばかりの自分の事を心配してくれる二人に、心が少し温かくなっていた。


「ありがとうな、二人とも。俺は大丈夫だ」


「しかし……」


「翔。坂原さん」


 涼は片手を上げる。


「またな」


 広人の後をついて行く涼を、翔と瑞紀は見送ってしまった。


「これで、いいの?」


「わからない。だが、俺達がどうこうできる事じゃない……」


 ギリッと翔は奥歯を噛み締める。



 三年前の事を思い出してしまった。あの時も見送るしか出来なく、そして……。


 翔は、振り切るように首を振ると言う。


「とりあえず、紫村を捜す方が先だ……」


「うん。でも、大丈夫?」


 心配そうに見上げてくる瑞紀に、翔は頷いて言った。


「俺は大丈夫だ」


 さっきの涼と同じ言葉が出てしまう事に、笑ってしまう。




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