外伝 ~七夕の客人~ プロローグ
すみません。本編ではありません。本編第4章はしばらくお休みになります。
外伝~七夕の客人~は本編第1章の9ヶ月前の時間にあたります。
薄暗い闇の中に土砂と車の残骸が散乱していた。崩落したトンネルに空いた空間に閉じ込められた多くの人達を、篝火のような炎が照らし出している。
腕の中に、骸と成り果てた少女を抱えている少年は泣いていた。回りからは呻き声や苦痛の声が聞こえていたが、そんなものは少年の耳には届いていなかった。
少女の死を受け入れられないのである。
ただ呆然と涙を流していた。
眼の前で揺らぐ炎さえも、眼に入っていない。
何が起こったのか、少年は理解できていなかった。
理解する前に、全てが終わっていた。
それでも少年が理解したのは、腕の中で冷たくなっていく幼馴染の少女の死だった。そして、自分の両親が死んだ事にも気がついていなかった。
何が起こったのか何があったのかを、少年が知ったのは、随分と時間が経ってからの事だった。
幼馴染の少女の家族を含めた楽しいはずの家族旅行が、一瞬にして地獄絵図に変った事に頭がついて行けなかった。
人は死ぬ。
知識としては知っていた。
しかし、あまりにも突然に、こんなにもあっさりと、死に直面した事は一度もなかった。だから身近な人の死を、少年は受け入れられなかったのである。
「――、あたしね。夢があるの」
真っ直ぐに瞳を輝かせて、少年に夢を話した少女。揺るがない視線は、少年の心を射抜くようだった。
それが二度と見る事ができないとは、思ってもいなかった。
眼の前で理不尽に奪われた命。
そして、奪われて行く命。
それは少年の心に、暗い影を残す事になった。
《何を嘆く。ぬしは生きておる》
揺らぐ炎が、言葉を発しているように思えた。
「――が死んだ……どうして、僕は生きているんだ……」
答える気はなかったが、口から言葉が出る。
《幸運であろう》
「幸運なもんか。――が死んだんだ」
《ぬしも消え去れば良かったのか》
「自分だけ生き残るなら、死んだ方がましだよ……」
骸となった幼馴染の少女の真っ直ぐな瞳と、楽しそうな笑顔が思い出される。
二度と目にする事ができないと思うと、胸に穴が開いたような寂しさが、埋める事の出来ない虚しさが湧き上がってきた。
《ぬしが生きてる事に、意味があるであろう》
「どんな!」
《ぬしが決める事であろう》
「ざけんな!」
揺らぐ炎と対話している事を、少年は不思議とも思っていない。いや、対話しているとさえ、思ってもいないのであろう。
どうしようもない憤りとも、怒りとも言える思いが口から出ているだけだった。
いつしか少年の口からは、怨嗟と呪詛の言葉が溢れてくる。
幼馴染の少女が死んだ事に。
自分が生き延びた事に。
眼の前にある全てを、自分を含めた全てが呪わしく思う。
この後、しばらく少年は気力を無くしたように、流されて行くだけの生活を過ごす事になった。




