39話 美緒と長谷川
研究所の執務室で美緒は一人で考えていた。
異形の事、異形となり人に戻る桂木翔の事、妹美沙の事、考えは取り止めもなく増えていく。思考の堂々巡りになっていることに気が付いてはいたが、止める事はできなかった。
きっかけがあれば、全てとはいかないが、もう少し何か判明する事があるのは、科学者としての経験でわかっている。そのきっかけが掴めずに、同じ事をなんと背も繰り返していた。
「美緒さん?」
いつの間にか執務室に姿を現した長谷川が、美緒に呼びかけている。返事を返さないどころか、何も見ていないような美緒に、長谷川はもう一度呼びかけていた。
「美緒さん……美緒!」
「なに」
ギロリと美緒の瞳が動いて長谷川を見る。
「大丈夫ですか?」
「だから、なに」
不機嫌そのもので聞き返す美緒に、長谷川はため息を付いていた。
「天気もいい事ですし、外に出ませんか?」
「炎天下に出ろと?」
「篭っていては気は沈むだけですよ」
「…………」
ギロリと見たままの美緒に、長谷川は再びため息を付く。
「私と、デートしましょう」
「なっ……」
「そうしましょう。気晴らしにもなりますよ」
「なっ、何であなたとデートしなくちゃいけないの! そんな暇はないわ!」
立ち上がって叫ぶ美緒の手を取って長谷川は引張って行った。
「ちょと、待ちなさい!」
「往生際が悪いなあ。美緒さんは、これから私とデートするんです」
「だから、どうして私が!」
「おや、私が嫌いですか?」
「そう言う事じゃないでしょう!」
「そう言う事ですよ」
涼しい顔で長谷川は美緒を引張って行って車に乗せた。
こうなると美緒も諦めるしかない。助手席でおとなしくなった。それを横目で見た長谷川は車を発進させる。
研究所から走り出した車に、美緒と長谷川が乗っていた事に気が付いた優香は、首を傾げながらも後を付けることにした。
「また、異形が出たの?」
美緒に用があったのだが、異形が出たとなれば話は別だ。慌ただしく出てきた二人を追って車輪は知らせる。途中で思い出したように悠馬へ連絡を入れた。
『はいよ』
「遅い。もっと早く出てよ」
『おいおい、こっちは仕事中だ。そう簡単に出れるか』
カンベンしろよと言いたそうな悠馬の声が聞こえる。
「あんた、今どこ?」
『ああ?』
「いいから、どこにいるのよ」
『店だ。バイクの渡しが一件入っているからな。お客待ち』
「じゃあ、違うのか……」
『何が違うんだ?』
「美緒長谷川さんと一緒に慌てて出て行ったから、てっきり……」
『一緒に? で、おまえは何をしているんだ?』
「後を追っている所よ」
『……そのまま後を追うつもりか?』
「そうだけど?」
悠馬のため息が聞こえてきた。
「なに?」
『……やめておけ』
「どうして?」
『馬に蹴られて何とやらだ』
「はぁ?」
呆気にとられてしまった優香だった。スマートホンからは笑い声が流れてくる。
『それにしても、あの長谷川がねぇ。ただのお坊ちゃんじゃなかったんだ。あいつがねぇ……』
「いや、だって、あの二人が?」
『さあな。まだわからんが、いいんじゃないのか』
「あんたはいいの? 狙っていたんじゃないの?」
『ああ、俺はいいんだ。別に狙っていたわけじゃない。面白そうだから口説いてみようと思っただけ出しな。遊ぶにはいいが、一緒にはなれないな』
「そんなもの?」
『ああ、そんなもんだ』
「まあ、異形がでたわけじゃないなら、いいか。じゃあね、悠馬」
少し落胆したように優香はスマートホンを切る。そして、好奇心を発揮して美緒と長谷川の後を付ける気になった。
そのことを優香は後悔する事となり、美緒と長谷川の写真を撮り続けた。
後々、その写真を見た美緒が、赤くなりながらネガごと全てを
出するように、優香に申し出ることになる。




