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異形の戦士  作者: 樹 雅
第1章 ~真紅の炎~
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2話 昼下がりのデート?

その日、翔は駅前の待ち合わせ場所で、二人の女性を前に首を傾げていた。

瑞紀は分かるとして、紫村までいるのはどう言う事だろうと思ってしまう。

 翔の顔をニコニコと見る瑞紀に、翔はため息を付いていた。


「で。紫村がいるのは、どう言う訳だ?」

「来る途中で偶然あったの。だから、一緒に来たの」

「ふーん。そうか」


 なるほど、と翔は美沙を見る。


「じゃ、紫村。またな」

「違う!」


 歩き出した翔の腕を瑞紀がつかんだ。首を傾げて翔は振り返っている。


「何が違うんだ?」

「美沙も一緒なの」

「あのなぁ。俺達、これからデートだろ。それに他の女がいるのは、どうかと思うぞ」

「他の女じゃないわよ。美沙は友達なんだから。それとも……」


 瑞紀は首を傾げて続けた。


「友達と一緒ではだめなの?」


 解っていないのか、解かって言っているのか、時どき翔は、瑞紀の言葉に疑問を感じる。今も、わざとしか思えない言葉だった。


「友達と一緒が悪い訳じゃない。時と場合を考えろと言っているんだ」

「美沙と逢えて嬉しくないの?」

「違うだろ。それは」

「どうして? 私は翔に逢えて嬉しい。美沙に逢えて嬉しい。翔は違うの?」


 本気で言っているのかと疑問に思うが、瑞紀は間違いなく本気で言っている。

 この一年の経験で、それを知っているだけに翔は頭を抱えたくなった。

 人の話を聞け。

そう言っても返ってくる言葉は『聞いてるよ。翔こそ聞いていないの?』と返されるだけだった。


「瑞紀と逢って、俺も嬉しいさ。だけど……」

 翔は一人そっぽを向いている美沙を振り返る。

「おい、紫村。何とか言ってくれ」

「何もない」


 にべもなく言い放った美沙に、翔は溜め息を付くしかなかった。美沙は翔よりも瑞紀との付き合いが長い。言うだけ無駄と判っていた。

 再び、ため息を付いて翔は瑞紀を呼ぶ。


「瑞紀」

「はい」


 名を呼ばれて、嬉しそうに瑞紀の顔が綻んだ。

「紫村と一緒でいいんだな」

 笑顔のまま頷く瑞紀に、デートじゃなかったのかと叫びたくなる翔である。

 結局、肩を落とすしかない翔は、恨めしそうな瞳で美沙を見る事しかできなかった。視線を受けた美沙は、肩を竦めて首を振るだけである。

 翔と瑞紀の仲が今一つ進展しないのも、この性格によるところが大きかった。


 翔としては進展させたいのだが、その度に何かしらの邪魔が入って先に進めないでいる。何かが邪魔をしているのではないかと、勘ぐる時もあった。

 思い過しだと言われれば、それまでだが何か釈然としないものがあるのも、確かな事である。

 美沙が鼻持ちならない女だったら、もっと気が楽だったかも知れないが、ニコニコと嬉しそうに美沙の事を話す瑞紀を知っているだけに悪い感情はない。

そして、美沙は美沙で瑞紀の事を翔に話す時は、怖いくらいに真剣な顔で心配している事が良く判った。


 連れだった三人は、若者向けのショップが立ち並ぶ商店街を歩いていた。瑞紀を先頭に右に翔、左に美沙がいる。二人を引き連れて瑞紀は歩いていた。

 ショーウインドウに飾られている小物に目を奪われ、軒先のワゴンを物色し、吊り下げられたアクセサリーを手に取ったりと瑞紀は忙しい。

 商店街をぶらついて、昼前には再び駅前へと戻る道を歩いていた。そろそろどこかに入って昼食を取るつもりだった。

 手近なファミリーレストランに入って注文を決めた後で、翔は瑞紀に言う。


「午後から映画を見るつもりだったが、どうする?」

「うん。映画を見るよりも、三人でブラブラする方が楽しい」

「そう、だろうな……」


 予定していた事がだめになる。

それは美沙が一緒に来る事になった時に判っていた。

 たまにはブラブラと歩くのも悪くはないかと、翔は思う事にした。思わなければやっていられない。瑞紀と一緒にいるのは楽しいし、嬉しいのだが……。


 そう、どうしても『だが』になってしまう。

この一年でどれだけの『だが』と言う思いをした事か。考えるのも馬鹿らしくなるくらいの『だが』があった事だけは覚えていた。

 最近では半ば諦めかけていた。ゆっくりと進んでいけばいいかと思うようにしていた。だから、初めのときほど落胆はしていない。


 昼食後のひとときに瑞紀は、包装紙に包んだ物を一つずつ翔と美沙に手渡す。

 何だと思って瑞紀を見ると、何か期待のこもった瞳が見返してきた。


「開けてみて」


 瑞紀の言葉に二人は包みを開ける。

中には蒼暗色の宝石が付いたペンダントが入っていた。まったく同じものを二人は手のひらに乗せて首を傾げてしまう。


「これは?」

「ムーンライツと呼ばれる護り石よ」

「ムーンライツ?」

「そう。それでね、それにまつわる伝説があるの」

「伝説?」


 疑わしそうに翔は瑞紀を見る。それを受けて瑞紀はふくれっ面になった。


「本当の伝説だ」


 美沙の口から出た言葉だった。

 ゆっくりと翔は頭を巡らせる。


「精霊石とも呼ばれている。初めて見たな」

「美沙は知っているの?」

「詳しくは知らないが、わたし達の一族の間では貴重な物と聞いている」

「翔は知らないのね」

「ああ、初めて見る」

「良く聞いてね」


 瑞紀は得意そうに翔と美沙の二人を見た。


「ムーンライツは、人の思いを蓄えて光り輝く石なの。強い思いが宿るほど、綺麗に光るようになるの。私の思いを長い間込めてきたから綺麗な蒼暗色でしょ」


 確かに暗い色ではない。光沢ある深い色合いだった。


「そしてね。これが一番大事なことよ」


 瑞紀は人差し指を立てて微笑む。


「一度だけ、持ち主を護る力があるの」


 今ひとつ、翔には信じられない事だった。

だから、話半分で聴いておく事にしていたのだが……。


 



後になって、瑞紀の言葉が真実を言っていた事を知る事になる。

その時、翔は―――。



 


「どうして、瑞紀がこれを?」

「昔ね、かっこいい妖精のお姉さんに貰ったの」

「かっこいい……妖精のお姉さん?」


 判らなかった翔の首が傾いていた。


「そう。美沙と出逢う前の事なんだけど。私ね、行方不明になった事があるの。どこかに迷い込んだようで、まったく知らない所だったわ。そこで私を見つけてくれたお姉さんが助けてくれたんだ。しばらくそこにいたんだけど、お姉さんはすごく強くて……」


翔の首がますます傾向いて行く。

妖精がすごく強いのかと疑問が浮かんだ。翔の知っている妖精は、小さくて羽根が生えている。強いはずはないが……?。


「……憧れたわ。子供もいて、一緒に遊んだ事を覚えている。その子もすごいのよ。私には無理な事でも平気でやっていたし、私を抱えて川なんか飛び越しちゃうし……」


ちょっと待て。


翔は突っ込みたいが、懸命にも黙っていた。向かいで美沙が真剣な顔で聞いているのが見えていたからだった。


「……ランちゃんと言ってね、とても活発な子だったんだよ」


(ラン? まさか……な)


かつて自分を救ってくれた少女の事を思い出した。


「……で、そのお姉さんになぜか私、物凄く気に入られて別れる時に、護り石だから大事にしなさいって言ってくれたのよ」


 その時の事を思い出したのか、瑞紀の顔は懐かしそうである。


「その事をお婆ちゃんに話したら言われたの。思いを込めて大切な人に渡しなさい。そう言っていた。前から、二人に何かあげたいなと思っていたから」

「それで、これか?」

「うん」


 力いっぱい頷かれた。

 どうリアクョンを取ればいいのか、判断に困った二人の顔が、引き攣ったように固まってしまう。


「嬉しくないの?」


 不安そうな瑞紀の言葉に二人はそろって首を振っていた。


「いや、嬉しいが……」

「貴重な物だから嬉しいのだが……」


 やはり『だが』が付いてしまう二人である。

 静かに翔は瑞紀に言った。


「なあ、瑞紀。お揃いの物を持つのは、別にいいんだが……」

「わたしと桂木が、お揃いの物を持つのは変に誤解される」

「俺と瑞紀ならいいんだ」

「えっ? そうなの?」


 不思議そうに瑞紀は、首を傾げて腕を組んで考え込んでしまった。

 その様子に二人は肩を落とし、やれやれと嘆息してしまう。


 恋人同士の常識を瑞紀は知らない。と言うよりも、全くと言っていいほど気にはしていなかった。一般的にはこうなのだと教えても納得しない。それ以前に、どうしてもそれが理解できないようだった。

 翔は理解できないのではなく、理解したくないとしか思えてならない。

ポンと手を打った瑞紀は顔を上げた。


「二人は、私にとって大切な人だから、二人に同じ物を持っていて欲しい。と言うのは、だめかな?」


 だめかなと言われても、二人には答えようがない。だから二人は、瑞紀に笑顔を見せた。それだけで瑞紀の顔に笑顔が戻る。二人は、この瑞紀の笑顔が好きだった。


「ありがとう。大事にする」


 そう言って翔は、首にペンダントを掛けて服の内に入れる。


「桂木と一緒なのは気になるが、瑞紀はわたしにとっても大切な人だから」


 そう言って美沙もペンダントを服の内に入れた。


「さあ、行きましょう」


 笑顔のまま瑞紀は立ち上がる。

 昼下がりのたわいもない一場面だった。

 そのはずだった。



その時までは。


次回から物語が動き始めます。

そして、遅くても週一で更新したいと思っています。

読んでくれてありがとうです


ではまた

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