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異形の戦士  作者: 樹 雅
第2章 ~白銀の風~
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31話 

 朝早くに呼び出された翔は、悠馬と四郎とともに姿を見せる。あくび交じりに美緒に挨拶をすると表情が固まった。

 美緒の隣で優香が手を振っているのを見て、思わず翔は美沙を振り返ってしまった。美沙は何も言わずに首を横に振っただけだった。


「あんたがどうしてここにいる?」

「悠馬、あんたの後輩も了見が狭いわよ」

「も?」


 片眉を上げた悠馬だった。


「美沙も冷たいし、後輩君も冷たい。美緒、どうしよう」

「まあ、しかたがないわ。初めが初めだったし、わだかまりが無いとは言えないわよ」


 ポンポント優香の肩を叩きながら美緒は言う。気安い二人に翔は呆気に取られたが、悠馬は苦笑を浮かべただけだった。


「まあ、それはおいといて……」


 ちょっと待てと翔は言いたかった。それだけで済ませるのか、そう思ってしまう。


「……桂木君。紅の異形になってくれない?」

「構いませんが?」

「MRIで撮影したいのよ」

「?」

「紅の異形の時に、その下がどうなっているのかを知りたいのよ。その結果次第では、他の異形の事も少しは解かるかも」

「どう言う事ですか?」

「話すよりも、実際に調べてから説明をした方が早いわ」


 答えずに美緒は翔を促していた。そして、優香を振り返っている。


「みんなと一緒に執務室で待っていて。結果はむこうで話すから」

「いいわ。その間にざっと説明をしておくわね」

「お願い」

「ちょっと待て下さい、美緒さん」


 止めたのは翔だった。首を傾げながらも聞いていた。


「それだと俺一人が解からないままです」

「ああ、それは大丈夫よ。検査しながらでも、私が説明するから」

「いや、ですが……」

「大して難しい事でもないわよ。さあ、向こうに行って準備をしてね」


 美緒に押し出されていく翔を見ながら優香も悠馬達を促した。


「さあ、私達も行くわよ。ここにいても美緒の邪魔だから」

「まて、優香」

「悠馬。あんたも物分りが悪くなったわね。すぐに終わるものでもすぐに結果が出るものでもないわ。その間の時間を無駄にしたくなかったら言う事を聞く」


 昔の優香の態度そのもので悠馬達を連れて検査室を出て、美緒の執務室に向かう。その途中で長谷川が姿を見せた。


「何か解かったのか?」


 息を切らす長谷川に、悠馬は首を振る。


「これからだ」

「これから?」

「ああ、なにやら優香と美緒が共謀して、何かの検査を翔にしている。その結果待ちの間に、その何かを説明するんだとよ」

「共謀なんて人聞きの悪い事を言わないでよ。悠馬、あんたその口の悪いのは治っていないの」


 くるりと振り返って優香は、憮然として言う。肩を竦めて悠馬は、長谷川を見た。


「ほらな」


 執務室に落ち着いた優香たちは、優香の言葉を待つしかなかった。その優香は人数分のコーヒーを入れて戻ってくる。


「悠馬はブラックでよかったわよね。他の人は砂糖のミルクも、適当に自分で入れてね」

「優香……」

「判っているわよ。彼、桂木翔の何を調べているのか、でしょ」

「判っているのなら、話せよ」

「詳しい事は美緒に聞いて」

「おい!」


 思わず声を強めた悠馬だった。一度、ぺろりと舌を出して優香は話し始める。


「きっかけは、悠馬の後輩君の言葉だった。確かに、人が異形へと変貌するのはおかしい。美緒も私もデータ上におかしな所が無いか、データの洗い直しをしていたんだけど……」

「それが目的だったんだろ」

「まあ、そうなんだけどね。写真があったじゃない。その写真を見ている内に、違和感を受ける写真が出てきた。それも一枚や二枚じゃないわ。どう見ても変な写真だった」

「変な写真? それは無いはずだ。こちらに持ち込んだ写真は、警察の方でも保管しているが、変なものは無かったと思う」


 首を傾げたのは長谷川だった。


「あるのよ、これが」


 そう言って優香は、美緒のデスクの上から封筒を手に取ってくると、中を出してテーブルの上に出して見せる。

 それは、紅の異形となった翔に倒された異形だった人物の写真。それのどこが変なのかは悠馬達にはわからなかった。


「これのどこが変なんだ?」

「あ、やっぱり判らないか……」

「だから、どこが変なんだ?」


 繰り返してしまう悠馬だった。


「あのね。異形の姿の時と人の姿の時では、身長も体重も違うのよ。正確には、桂木翔は七センチ身長が高くなり、体重も八キロほど重くなるの。他の異形だった人物も、同じように身長は高くなり、体重も重くなるのよ」

「ああ、その事は美緒さんから前に聞いていたが、結局は判らないと言っていたはずだったが……」


 頷いたのは長谷川だった。何だと言うように、優香は長谷川を見たが、結局は呆れた顔になっていた。


「それを知っているのに、判らないなんて。あなた、バカでしょう」

「!」


 噴出したのは美沙だった。悠馬は、それを言うかというような顔をし、四郎は呆気に取られたように優香の顔を見てしまった。


「美沙君。カンベンしてくれ」

「悪いな、長谷川さん。わたしや翔と同じ事を言うような者がいるとは思ってはいなかった」

「あらま、美沙も言ったんだ。しょうがないわね。もっとしっかりとしなさいよ」


 責められてしまった長谷川は言葉を失う。笑いながらも悠馬が長谷川の肩を叩きながら優香に言った。


「まあ、それはおいといてだな。俺にも判らんが、いったい何が言いたいんた?」

「しかたがないわね。いい、人が異形になると身長も体重も増える。なのに、なんでこの人達は服を着ているの?」

「?」


 理解していないような悠馬や長谷川に、優香はもう一度言う。


「人が異形に変貌する時に、身体が一回り大きくなると言えるのよ。そうなると、当然のように衣服は裂けてしまうはずよ。なのに、この人達は避けてボロボロどころか、しっかりと服を着込んでいるわ。おかしくない?」

「ああ、そうか。確かに、それはおかしいな。でも、それが翔と何の関係があるんだ?」


 納得したように頷いた美沙だったが、やはり首を振っていた。


「あなた、本当に美緒の妹?」 


 呆れたような優香を美沙は睨みつける。


「どう言う意味だ」

「おまたせ……って、美沙。どうしたの?」


 扉を開けて入ってきた美緒が、優香を睨みつけている美沙に気がついて首を傾げてしまった。その後ろから首を傾げている翔が入ってくる。


「なんでもない」

「そう。ならいいけど……」

「美緒、どうだったの?」

「あたりよ」


 笑って頷く美緒に、優香も笑い返していた。


「じゃあ、後輩君を基準に考えられるわね」

「何が、どうなっている? いいかげんで、判るように言ってくれ」


 判っている二人に、悠馬が言う。イラついているのが判るような声だった。


「あら、まだ説明していなかったの?」


 美緒が優香を見る。溜め息をついて優香は言った。


「頭、悪くって。一から十まで説明しないと理解できないみたいなの」

「どこまで?」

「遺体が服を着ていたところまでよ」

「ああ、判った。そこから先は結果と一緒に説明した方が早いわ」

「お願いするわ。私も結果は聞きたいから」

「じゃ、桂木君も座って」


 無言で翔は美沙の横に立つ。


「桂木君が紅の異形の姿になった時、彼の身体がどうなっているのかを調べたのだけれど。結果から言うと、人の骨格が現れたわ」


 美緒の言葉に頷いているのは優香だけだった。他は黙ったまま次の言葉を待っているようだった。


「この事から、紅の異形の姿は全身を覆う装甲だと考えられるわ。たぶん、他の異形だった人達も同じだと思う。だから、彼らが人の姿に戻った時に、衣服を着用していたわけよ。そして、彼らの身長や体重が増える事も、これで説明できるわ」


 言葉を止めた美緒は、どうと言いそうな顔だったが、誰もが何も言わずいる事に困ったような顔になってしまう。


「えっと、判らなかった?」

「つまり、人が異形の姿になるのではなく、人が異形の姿を纏うのか?」

「良く判っているじゃない。そりと降りよ、美沙」

「だから、死んで人の姿に戻った時に服をきていた?」

「そうよ。これで謎が一つ解けたわ」

「で?」


 と美沙の声は冷たい。


「それが、どうした?」

「どうしたって……」

「翔が、なぜ異形の姿を纏えるのか、他の二人が、いや三人が異形の姿を纏えたのか、何も判っちゃいない。異形の姿が装甲など、戦っていれば判る」


 淡々と冷たい声で美沙は言う。


「優香、妹が冷たいよぅ」


 美緒が優香に泣きついた。その姿に美沙は頭痛を感じてしまう。同じよう頭痛を感じたのは翔だった。腰を屈めて美沙にささやく。


「美緒さん。何かキャラが変わっていないか?」

「元々あんなもんだ。気安い友人ができて嬉しいんだろ」


 美沙は美緒を見たまま翔に囁き返していた。


「なあ」と悠馬が顔を上げる「異形の姿が装甲だとしてもいいんだが、それであの力と速度が出せるか?」

「強化装甲だと思った」


 一転して真面目に答える美緒だった。それに溜め息をついたのは長谷川だった。話についていけなかった四郎は、聞き流してしまう事にした。


「ほら、悠馬。あんたの方が詳しいでしょう」


 話を悠馬に振ったのは優香だった。


「つまり、SFに出てくるパワードスーツのような物か」

「パワードスーツ?」


 長谷川が首を傾げて悠馬を見た。


「パワードスーツは、人の力と速度を大幅に上げる事が出来る機械だ。それなら、コンクリートを破砕する事も、鉄柱を曲げる事も出来る……が、こんなにスマートではない。もっとゴツイ形になる」

「ゴツクなる?」

「あのな、長谷川よ。機械なら動力と言う物が必要になる。その動力を作り出すのにエンジンが必要になる。かりに小型のエンジンやバッテリーを積むにしても、人と比較すると大きくなるんだ。翔の異形の姿にしても他の異形の姿にしても、人の身体を一周り大きくしたぐらいだ。どこにそんな物が積める?」

「無理……なんだな。結局は謎だらけなのか」

「一つ判ったとしても、そこから新しい不明な事が出てくる。まあ、それが研究者としては当たり前な事なんだけどね」


 あっさりと言った美緒だった。


「だけどね。何も判らないよりは良い事なの。一つ一つ解明していけば、いずれは全てが解明できるわ。今までそうして科学は発展してきたわ。もっとも、異形に関しては……」


 そこで苦笑を浮かべる美緒だった。


「……どのぐらいの時間が掛かるかは判らないけどね」


 突然、翔が扉に向かう。首を傾げたのは、長谷川と美緒と優香の三人だった。弾かれたように立ち上がって翔の後を追ったのは美沙である。そして、悠馬と四郎は首を振ってたち上がっていた。


「どこだ?」

「方向だけだ」


 美沙は振り返って言う。その時には悠馬と四郎も扉に向かっていた。


「場所は判り次第連絡をする」


 そのまま美沙は、翔を追って駆け出して行った。呆気にとられたまま座っている三人に、悠馬は言った。


「異形が出た。翔には異形が判るらしい」


 その言葉で長谷川が反射的に立ち上がって扉へ向かう。


「車を回します」


 その時には、美緒も優香も立ち上がっていた。





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