プロローグ 2
男には、これが夢だと解っていた……。
無力な自分を突き付けられた時の事だと。
言うまでも無く、今も無力である事を知っていた。
幾度となく、見た事だろう。
地に押し付けられた身体を
水が濡らしていた。
風が渦巻いて目を細めて見ているしかなかった。
炎に照らされる彼女を。
何も出来ずに見るだけしかなかった。
後悔でもなく、悔しさでもない。
言いようの無い思い。
全ての色が無くなり、世界がモノトーンに変わってしまった。
忘れようにも忘れる事が出来ない。
目鼻立ちの整った女が言った言葉。
『力の無い事を理由に、私の娘を見捨てるのか!』
返す言葉が無かった。
身を伏せる大地が。
身体を濡らす水が。
渦巻いた風が。
揺らぐ炎が。
あざ笑う。
《力が欲しいか》 と。
あの時、全てを打ち砕く力が欲しかった。
望んでも手にする術さえ知らなかった。
最後は、彼女に護られて命を失わずにすんだ。
悔やむどころの話ではない。
思いだけで突っ走った自分が、力の無い自分がわずらわしく許せなかった。
彼女の母は、それさえ許さなかった。
『娘の思いを無にするな!』
その時から男は覚悟を決めた。
同じ事が起こったなら、死のう。
一人、生き残るのはいやだ。
それでもまだ、自分を生かす者がいるのなら、そいつに命を差し出すと。
男は知らなかった。
この夢が前兆だという事に。
プロローグを2話に分けました。
お読み下さってありがとうです