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JOY  作者: co
第10章・ショコラブラウンのジョイ
98/130

「だけど、浅井さん、先輩のこと一生忘れないでしょ」

「忘れない。絶対忘れない。だけど、大沢君が言ってくれたから」

「え?」

「辛かっただろうなって」

「はい」

「私、そういう言葉、初めて聞いたの」


「励まされたり慰められたり叱られたりしたけど、誰も、」

「誰も先輩がそんな風に、」

「先輩がそんな風に考えたとか、先輩が何を思ったとか、誰も」


 そこまで言って、突然浅井の目に涙が湧いた。


「先輩が、辛かったなんて」


 声が震えた。


「私と一緒にいたかったなんて」


 それ以上は続けられなかった。

 体の震えも涙も止まらなくなった。

 だから大沢は浅井を膝から下ろして、震える体を胸に抱いた。



 辛かっただろうなんて、考えたことがなかった。

 先輩が私と一緒にいたかっただろうなんて、思いもつかなかった。

 いて欲しい、幽霊でもいいから側にいて欲しい、私も連れて行って欲しい、ずっとそう思っていた。

 悲しむ自分を見たら先輩が苦しいだろうとは思った。空にいる先輩が苦しいだろうとは思った。

 しかし一度も、自分の側を離れる瞬間の先輩の気持ちを考えたことがなかった。

 十年間一度も思いつかなかった。

 それを、今初めて話を聞いた大沢君が伝えてくれた。


 何故思いつかなかったのだろう。

 どうして気付かなかったのだろう。

 その思いこそ先輩なのに

 浅井は嗚咽を噛み殺す。

 大沢の言葉を聞いて、浅井の中の先輩に血が通ったような気がした。

 自分は長い間、10年間も、血の通わない先輩の抜け殻を抱えていたのかも知れない。

 わかっていなかったのは自分だった。



「だって、俺だったら、辛い。もう一緒にいられないことが一番悲しい」

 大沢が言った。

 浅井は、うん、と頷いて、また泣いた。

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