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「こっちに来てからは、できるだけ一緒にいた。先輩は野球で忙しかったから夜にしか会えなかったけど。だけどほとんど毎日一緒にいた」
大沢が体を捻ったタイミングで、ジーンズを腰から下ろされた。
浅井の指はもう温かくなってきているが、大沢は一瞬全身が冷える思いがした。
気を紛らすために浅井の話に集中する。
ほとんど毎晩一緒にいた、ということは、ほとんど同棲と言ってもいいくらいだ。
俺にはそんな経験はないな。
「豊田の花火大会には2回行ったよ。笑うぐらいすごいの」
ああ、おいでん祭りな。俺も行った。女と。
浅井が腿を握るので、マッサージだと思い込もうと大沢は心で抵抗する。
息が速くなってきている。
「毎年行くつもりだったの。そう、約束してた」
大沢が目を開けて息を止めた。
「秋に、事故があって」
ここからだ。
ここから、浅井さんがどんなに嘆き悲しんだか、どんなに彼を必要としていたか、語られる。
そうか。
たしかにこれは仕返しだ。
こんなにひどい罰はないだろ。
大沢がそう覚悟した。
「先輩の単独事故なんだけど、原因がハンドル操作の誤りとか動物が飛び出したんだろうとか言われてね」
「私、隣に乗ってて一緒に事故に遭ってるのに、記憶がないの」
「私しかわからないことなのに、覚えてないの」
え?
「絶対、先輩のせいじゃないのよ。私が乗ってるのにそんな乱暴な運転するはずないのよ」
「でももう、車だって潰れてしまって誰も検証なんかしてくれなかった」
待ってよ、浅井さん
「先輩、死んでしまったから何も言えないのに、私しか知らないことなのに、」
なんだよ……
「思い出せないの」
「絶対先輩のせいじゃないのに」
いまだに、先輩を庇ってるのかよ。
自分だって、どんな辛い思いしてきたんだよ?