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ぎょっとして大沢が目を開けると、浅井が正面で、ひどく挑戦的な攻撃的な目付きで大沢を見ていた。
「高校の一年先輩で、野球部のキャプテンでショートで4番。かっこよかった。全校の女子のアイドルだった」
うそだろ、浅井さん。
困惑している大沢の肩に、浅井がまた手をかける。
「私もこっそり好きだったけど、それだけで別に何も望んでなかった。だってアイドルだから。きっと私の名前も知らないと思ってた」
浅井が大沢のパーカーのファスナーを下ろした。
「だけど、漫画みたいだけど、廊下でぶつかっちゃって、それで初めて話をして、」
……悪趣味だ。浅井さん……。
「図書室で借りた本を落としたの。それを見て先輩がね、」
そう言いながら浅井が大沢の体を押して床に倒した。
「自分が借りたかった本だ!って、次自分が借りるから一緒に図書室行ってくれって頼まれて、」
パーカーの前が開かれて、浅井は中のTシャツをめくろうとしている。
「でもその本はもう予約が入っててだめだったの。それでがっかりしてたから、」
浅井の冷たい手が腹に触れ、大沢は力を入れた。
「別のシリーズでよかったら持ってますよって言ってみたの。私としては思い切って」
大沢が、はぁ、とため息をつく。苦しい。
「そしたら、貸してくれるの?ありがとう、浅井さん!って」
耐えられない。耐えられない。大沢が目を閉じた。どうしたら耐えられる。
「浅井さんって言ったのよ。びっくりした。私の名前知ってるなんて」
ああ、この話か。これに集中すれば。
「だけどやっぱり期待はしなかったの。たまたま名前知ってただけなんだって思った」
高校生の浅井さん。多分、長い三つ編み。セーラー服。
「それなのにね、先輩、私のことずっと見てたって言ったのよ。そんなはずないでしょ?」
見てたんだろ。俺だって見てた。
「だからやっぱり信用しなかったの。嘘だと思ったんだけど、そしたら先輩が、たまに会って本の話しようって言うの。それじゃ、断れないじゃない?」
ああ、やっぱりな。浅井さんは昔から誘い辛かったんだな。わかるよ先輩。
浅井の手が大沢の黒いTシャツを胸がはだけるまでめくり上げた。
「それで、会ってると先輩って思ったより面白いし、なんていうかな。もっと好きになっていったのね」
浅井が鎖骨を舐める。大沢は天井を見上げて浅く息をした。
「でもあまり本気にならないように気をつけてたし、あまり知られないようにもしてたんだけど、」
苦しい
「それなのに、他校の生徒に知られていて、私襲われたの。先輩は野球部OBだから絶対事件なんか起こせないから。もし起こしたら次の年の後輩たちの活動が制限されることになるから、私は助けられないはずだったの」
え……?