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玄関から入ってすぐのダイニングキッチンで、ブルゾンを横に置いて大沢は正座していた。
浅井にそうしろと言われたからだ。
ダイニングキッチンとは言え、テーブルも椅子もないので広く感じる。静かな中、冷蔵庫だけが動いている音を立てている。
浅井が奥の部屋に入って行ってエアコンをつけたので、少し暖かい風を感じた。
そして浅井がジャケットを脱いで戻ってきた。
思い切り髪を短くして、少し色を入れて、メガネを外して、短めのスカートにヒールのブーツ。
確かにいつもの浅井さんとは180度印象が違う。だからと言って俺は間違わないよ。
大沢はそう思って、浅井を見つめる。
こんなに外側を変えてもごまかされなかったあなたは、私の何を見ていた?
浅井はそれでもまだ、大沢を全面的には信用しない。
これから厳しいテストをするから、覚悟して。
浅井はそう思って、大沢を見下ろす。
部屋の電気を暗くしてから、浅井が正座する大沢の前に膝をついた。
そして右手で大沢の耳に触れ、左手を大沢の膝に置き、顔に唇を近づけた。
大沢は息を止めてそれを待ちながら、両手を浅井の体に伸ばした。
その途端に浅井の体が離れて大沢の両手が浅井の両手で弾かれた。
「私の体に触れないでって言ったでしょ?」
大沢が、はっ、と息を吸った。
浅井がまた大沢に近づき、その体の端から触れ始める。
大沢は浅井から目を逸らして、大きく息を吐いた。
浅井の唇が大沢の顎に触れた。
大沢はきつく目を閉じた。
仕返しだ。これはこの前の。俺はこれに耐えなければならない。
耐えて、どうなるっていうんだ?
耐えれば、多分、許される……?
じきに浅井に両手で顔を挟まれ、少し顎を持ち上げられ、唇にキスされた。
大沢は顔を顰めたまま、目をきつく閉じたまま、両手を握り締めて息も止めていた。
そして、浅井の声がした。
「昔の話、聞きたいんでしょ?」