1
さすがにもう夜も遅いので、浅井はタクシーで帰宅した。
アパートの階段を上りきって通路に向いてから、気付いた。
自分の部屋の前に、誰かがうずくまっている。
誰か、なんて、予想はついている。
浅井はヒールを鳴らしながら歩いていった。
ここまで変身した自分に、まず気付かないだろう。それで失格だ。
そう考えながら、歩いていった。
その音でうずくまっていた男が顔を上げた。
もちろん大沢だ。
浅井は目も合わせずに俯いたまま歩き、ちょっと自分の部屋の前も通り過ぎてみようかな、などと考えていたその前に、
「浅井さん。そんなに痩せたんだ」
と、大沢の声がした。
ここまで髪を短くした自分に気付いた?
「ドア、蹴破るんじゃなかったの?」
少し悔しくて、浅井が低い声で訊いた。
「外出したのがわかったから……」
「え?」
「足跡が、その、ブーツの。それがこの部屋から出て行った跡があったから、外出したんだと思って」
浅井は顔を顰めて、部屋の鍵を開けた。
大沢も立ち上がった。
ドアを開けて浅井が大沢を振り返り、言った。
「この後、私に指一本触れないで。それができるなら、入って。できないなら帰って」
大沢が一瞬息を飲んで、頷いてから、できる、と答えた。
それを見て浅井がドアを大きく開き、室内の電気をつけた。