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嘘……、なんでこんなに早く二人が抜けてくるの……?って、あ、もう11時?いつの間に……。
二人は浅井たちと同じく窓際の、空きテーブルを一つ挟んだテーブルに座った。栗尾が背を向けた椅子に、大沢が栗尾、君島を挟んで浅井と向き合う席に着いた。
気付かれる前に出ようと浅井は焦ったが、君島はまだポワ~っとしている。
「ね、君島君、」
浅井の声に被せるように、酔った栗尾の大声が響いた。
「もうホントに嫌ぁ。あのイヤミなお局様ぁ」
浅井が声を失う。
「いつも私ばっかりなのよぉ。私が一番若いからだって分かってるけどぉ」
……私のことか?
「さっきのだって、ど~考えたってお客が悪いに決まってんのにぃ」
……私だ……
「自分で余計なことしてさぁ~、仕事ができるぅみたいなフリすんのぉ!」
……ん~……
「浅井さんは実際仕事できるよ。それはみんな認めてんじゃね~の?」
ああ、余計なフォローしないで。大沢君……
「あ~!!!!大沢君、庇うんだぁ~!あのオバサン!」
オバサン……
「趣味わる~っ!!!あのヒト絶対カレシいない歴年齢と一緒だよ!キモっ!」
キモ……
浅井は俯いて頬杖をつき、ため息をついた。
その浅井を君島が半眼でじっと見ている。
「髪型一回も変えたことないって、ありえなくない?ずっとあの真っ黒のロングだよ?」
「先輩が好きだって言ったの。絶対変えないわ」
浅井が小さく反論した
「メガネだってさぁ!あれ一つしかないのよ!貧乏なの?ケチ?てか面倒なのよ!もう女じゃない!」
「同じのを三つ持ってるわ。先輩が選んだフレームなのよ。他は選ばないわ」
浅井も酔っているのだ。こんなことを口にするのも初めてだ。
「でも可哀想よね。女に見られないままオバサンになってしまったなんて、ホント、可哀想!」
きゃはははは、と栗尾が大声で笑った。
浅井は、俯いたまま微笑んだ。
「お前さ、いいすぎだっての。そんなこと思ってんのお前一人だよ」
いいわよ大沢君。あなたがフォローするたびにもっとひどくなるの。そういうものよ。
もういい。私も、何バカなこと言ってるんだか……。
「君島君、もう、」
浅井は無理に笑みを作って、顔をあげて君島にまた言った。
それを待ってたかのように、君島が尋ねた。
「浅井さん、フェアレディZって、知ってる?」