7
しばらく頬杖をついて黙っていると、チーズを乗せた皿が目の前に滑ってきた。
顔を上げるとバーテンと目が合った。
「それ、余ったんで」
そう言われて皿を見るとたしかに不恰好なチーズ勢ぞろいだ。
「ありがとう……」
そういえば浅井はここに来てから強いカクテルを飲むばかりでつまみを一切取ってなかった。
そしてチーズを咥えてバーテンに訊いた。
「君島君に知られたらどうする?」
「何を?」
「あなたが隠してること、君島君が知ってたら、どう?」
「どうって……。別に無視しますけど」
違う。それは私の求めている答えじゃない!と思いつつ、浅井は次のチーズを頬張った。
私はそうじゃない。
多分そうじゃない。
酔っていて全然整理できないけど、私は多分もう一人じゃ先輩を抱えきれない。
多分そういうことだ。
それは多分、
大沢君が現れたからだ。
大沢君さえいなければ、きっとまだ頑張れた。
浅井が天井を仰いだ。
賭け、になるかな。
そう考えて目を閉じた。
この後家に戻って、大沢君が待っているかどうかの賭け。
それから、その後大沢君が、私の話を受け入れるかどうかの賭け。
大きく息を吐いて顔を正面に戻すと、バーテンはシェイカーやジガーを洗っていた。
浅井は両手で頬杖をついて、それを眺めた。
この子も、戦っているんだなぁ。
怒りと諦めの間で戦っている。
まだこんなに若いのに。
私がこのくらいの時は、先輩を失ったばかりで苦しいだけだった。
浅井が、呟いた。
「すごいね」
「はい?」
バーテンが返事をした。
「まだ若いくせに。二十歳なんでしょ?」
浅井が笑顔で言うと、バーテンは一瞬目を逸らした。
だから浅井は笑顔を消して、え?と言った後に、まさか、と呟き、
バーテンはそれを聞いて唇に人差し指を当てた。
浅井も口を手で隠しながらも驚いて、手の中に叫んだ。
「まさか19?!」
バーテンは眉を顰めて、立てた人差し指を折って拳を唇に当てた。
「未成年ってこういうところで働いていいもんなの?」
「飲んでるわけじゃないしいいんじゃないですか?ただ隠してるので言わないでください」
「言わないけど……じゃ、今は君島君の方が年上なのね?」
「そうですね。あっちが4月で俺は3月なので、実は1年ぐらいあっちが上です」
「見えない……」
「それ、褒め言葉ですかね?」
「あ、うん。そう思って」