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一生友達でいるなんて、そんな単位を持ち出す人なんてそういない。
少なくとも私には、先輩しかいなかった。
この先60年一緒にいるんだと思えば、この1年ぐらいは我慢できる気がしないか?
そう言われて、先輩に会えなかった1年を我慢できた。
その言葉で、高校最後の1年を乗り切った。
それを思い出して、浅井は首を振った。
それも全部、私だけの宝物だ。
宝箱にしまって、心の奥底に沈める。
そのためにここから逃げるんだ。
コースターの上にコンとグラスが置かれて
「大丈夫ですか?」
とバーテンに訊かれた。
はっと気付いて頷くと、シェイカーから酒が注がれた。
このバーテンも、人に言わない宝箱を心の奥底に沈めてるんだろうか。
だから君島君にも何も教えないんだろうか。
「バーテン君」
「……はい」
「君島君にどんなこと訊かれるの?」
「どんなこと?……何でもですが」
「何でも……。あ、そういえば家族のこととか友達のことも教えてあげないんだって?」
「普通誰でも必要のないことは教えないでしょう」
「そっか」
そうかな。
何かこう、頷けない気がする。
もっと納得できる答えをバーテン君は持ってる気がするのに。
「でも、教えない必要もないじゃない」
「教えない必要」
ちょっと屁理屈か……。
「だとしても、俺には教えなくてもいい権利はあります」
浅井は笑った。私の屁理屈以上の屁理屈だ・・・
「そうよね。みんな自由なんだしね」
そして浅井がため息をついた。
「そうよね。教えなくていい権利は確かにあるわよね」
その後、バーテンが独り言のように、言った。
「どうせ、わかってもらえないし」