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JOY  作者: co
第9章・最後のホワイトレディ
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 浅井はバーをぐるりと見回した。

 そういえば恐らく、ここも最後になる。

 今日で二度目だけど、これでおしまいか。


 そしてまたバーテンが目に入る。

 君島に一生付き合おうと思われているバーテン。


 私はこの街で10年も暮らして、何も得ずに逃げようとしている。

 この子たちは、ここに来て2年足らずで生涯の友人を得たのね。

 あ、違うか。君島君だけか。


 ギムレットの最後の一滴を舐めてからため息をついた。

 目を上げるとバーテンと目が合った。

 だから、頬杖をついたまま、XYZをオーダーした。

 はい、と答えてまた手際よく仕事に入る。


 いいなぁと思った。

 羨ましいなぁと。

 何がかははっきり分からないが、二人が羨ましい。

 多分私は酔ってきたのだ。

 浅井は熱くなってきた頬を手の平で包み、目を閉じた。

 コトンと音がして目を開けると、もうカクテルが置かれていた。

 見上げると、バーテンが無表情に見下ろしている。


 グラスの足をつまんで、バーテンに訊いた。

「君島君が嫌いなの?」

「はい」

 即答された。

 酒を一口飲んで、教えた。

「だから、君島君に好かれてるのよ。知らないの?」

 そしてバーテンを見上げた。

「あの子、自分を嫌いな人が好きなのよ」

 バーテンは少し目を見開いて驚き、その後顔を顰めて片手で頭を抱え、果てしなく嫌な表情をした。

 酒をもう一口飲んで、追い討ちをかけた。

「君島君に嫌われたいなら、方法は一つしかないじゃない」

 顔を顰めたままバーテンが目を向けた。

「彼に好きだって言うの」

 浅井は真面目な顔をして、指を一本立てて断言した。

 バーテンは両手で頭を抱えて俯いた。

 浅井はものすごく楽しい気分になり、笑顔でもう一口飲んだ。

 

「あれ?」

 と、バーテンが、まだ50%ほど嫌な表情を残したまま浅井を見下ろして訊いた。

「じゃ、あなたは君島に何て言ったんです?」

「私、嫌いだって言っちゃったのよ」

「やっぱり嫌いなんじゃないですか」

「そんなことないわよ。いろいろと事情があるの」

 浅井がそう言ってカクテルを飲み干して次を頼む。

「ウォッカベースのこういうの何て言ったっけ?」

「バラライカ」

「それ」

「はい」

 バーテンが仕事に戻る。


 一人のお酒も楽しいじゃない。

 あ、違う。バーテン君が相手してくれてるからか。

 酔っ払いらしく、浅井の思考がどんどん遅くなる。

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