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少しバーテンの手が空いたようなので、ギムレットを頼んで浅井が話しかけた。
「君島君が、あなたのこと色々知りたがってるじゃない?」
「ああ。はい。嫌なヤツです」
バーテンが酒を準備しながら答える。浅井が少し笑って言った。
「教えてあげないの?」
「何をですか」
「色々」
「別に……、知って欲しいとも思ってないので」
「そうよね」
納得……。やはり私とバーテン君は似てるんだろうか。
「でも君島君はあなたと一生付き合っていくから、何でも知りたいんだって言ってたわよ」
「……。そういうこと言いますか普通。鬱陶しい……」
「そうかな」
眉間にざっくり皺を入れたバーテンの顔を見て浅井は笑った。
「私は君島君、鬱陶しくないけどなぁ」
「俺はダメです」
「そう言いながら、この前もお世話してたじゃない」
「そうですね。手間もかかるし鬱陶しいです」
何かおかしい、と思いながら浅井はまだ笑っていた。
「仲よさそうに見えるわよ」
「悪いです」
「だって、鬱陶しいならお世話しなきゃいいじゃない」
そうだ。筋が通ってないのはここだ、と浅井が訊いた。
「いや、あそこで被害を食い止めておかないと大惨事が俺に降りかかる事になるんです」
「え?」
「そういう計算の元で、しょうがなくやったことです」
「計算」
「多分、あいつは俺のそういう足元を見た行動を取ってるんです。それが鬱陶しい」
「そんなことないと思うよ。君島君は君島君で精一杯だと思うけど」
バーテンが真っ直ぐ浅井を見て首を傾げた。
「精一杯?俺はあいつ、かなり余計なことをしていると思いますけど」
あああ……!そうだった……!
君島の彼女たちを思い出して、浅井は両手で顔を覆った。
その顔の前にギムレットが置かれた。
そしてまたオーダーが入り、バーテンは仕事に戻った。