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そしてバーテンは視線を右に逸らしてから顔を顰めて首を傾げ、浅井に視線を戻して言った。
「たしかにこの前タンデムしましたけどあなたじゃないし、ストーカーならお断りしてますので他をあたってください」
浅井はカウンターに顔を突っ伏して笑い転げた。
ひどすぎるじゃない……!
笑いながらだったのでほとんど片言で、自分の名前は浅井で、君島の部屋まであなたの緑のバイクで送ってもらって1万円払ったのだと、当事者しか知らない情報を提供して納得してもらった。
やっと納得してもらったが、バーテンはまだ首を傾げている。
「多分この次会っても、あなただと認識できないと思います」
「そういうこと偉そうに言わないでよ」
「いや、認識できないと思うので今謝っておきます」
相変わらず変な子だ。浅井はまた笑った。
「それに。私あなたの彼女なの?」
笑いながら問うと、バーテンはいたずらを見つけられた子供のようにわずかに唇を尖らせて俯いた。
そんな顔もするのかと浅井はさらに笑った。
「……すいません。面倒だったので……」
浅井はまた、頭を抱えて突っ伏して爆笑した。
浅井が笑っているうちに、新しくオーダーが入りバーテンが働き出したので、頬杖をついてそれを見ていた。
それに気付いたバーテンが
「オーダーは?ホワイトレディですか?」
と訊いてきた。
たった一度きりの浅井のオーダーを覚えていた。
嬉しくて笑顔のまま頷いた。
今日はずっと笑顔だ。
昨日までが嘘のようだ。
バーテンの作業は今度はテーブル席毎に、時間の掛かるシェイクから始めていた。
さほど急いでいるようには見えないが動きに無駄がないせいと作業が合理的なので仕事が速い。
合間にいつの間にかホワイトレディが出来ていて、目の前にコースターが置かれ、グラスが置かれ、シェイカーからカクテルが注がれた。
注ぎ終わりシェイカーをカランと鳴らして、お待たせしましたと低い声で言って、バーテンはまた仕事に戻った。
君島君に研究されているミステリアスなバーテン君。
何も教えていないのなら、きっと教えたくないことばかりなのだろう。
それを探られるのはどんな気持ちなのか。
私ならたまらない。多分耐えられない。
バーテン君はどんな気持ち?
と、ぼんやりバーテンを眺めていると、彼は小さな紙を引き出しから出してペンで何か書きながら
「日付は今日でいいんですか?」
と言った。
浅井がまだぼんやりしていると、
「宛名は上様ですか?」
と浅井を見下ろして言った。
領収書か!と気付き、浅井はまた笑い出した。
印鑑がないんですが、まさか血判まではいらないでしょう?と訊かれてまた笑った。