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一時間以上も歩いてジガーレイに到着した。
何日も会社をさぼっているので曜日感覚がないが、今日は金曜日だと君島君が言っていた。
あれから一週間。
先週初めてここに来たんだわ。
遠い昔のことのようだ。
鈴の音をたてて扉を開け、空いていないテーブルの間を抜けてカウンターの席についた。
バーテンが相変わらず無愛想に働いていた。
「ね~え、原田君。この前バイクに乗せてた娘、彼女なの?」
頬杖をついた女性客がバーテンに訊ねた。
バーテンは無視しているが、浅井はぎょっとした。
私?あ、そうとも限らないわよね?彼女がいたら乗せるわよね?
「あんな真昼間にノーヘルで、かっこよかったわよ」
私だ……!見てたんだ……!
「ねぇ原田君!ん~、ダイキリ追加!」
「はい」
「彼女なの?」
バーテンが注文を受けるタイミングで、客が質問した。
「……そうです」
バーテンが表情を変えずに低い声で答えた。
「えええええええ~~~~っ?!!!」
カウンターの客が全員大声を上げた。浅井も含めて。
「やだもう信じられない原田君、ダイキリキャンセル!」
「あなたのファンがこれだけいるの、気付かなかったの?」
「そうよそうよ。もうしばらく来ないから!」
「あ、私は来るから心配しないで!」
「抜け駆けっ?ありえない!」
「私も来る!」
賑やかな若干年嵩の女性客たちが一斉に席を立った。
「ありがとうございました」
とバーテンの気のない挨拶が聞こえた。
他の店員がカウンターのグラスや皿を片付けている間、バーテンはシェイカーやナイフを洗って水切りに置き、
「ご注文は?」
と浅井に声をかけた。
浅井はまだ驚いたままだったのだが、とりあえず最初に頼む物は決めてあったので答えた。
「領収書」
「お支払いがなければ発行できませんが?」
バーテンが即答した。
「払ったじゃない、1万円!って、ねぇ、私、あなたの彼女なの?」
浅井は小声で訊いた。
バーテンが珍しく、驚いた顔をした。