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JOY  作者: co
第8章・白とシルバーの店
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 公園の木々の間からグラウンドが見えるが、そのグラウンドの木々の下に所々ベンチが設置してあり、君島の指差す先のベンチにだけ人がいた。

 腰をかけているというか、両足まで乗せている。


「浩一はね、ネコが好きなんだ。多分、てか絶対、人間よりネコが好きなんだ」

 確かに横に置いたヘルメット、着ているブルゾンがバーテンのものだ。

「あれね、餌付けしないで懐かせるんだって。挑戦してるの」

 ベンチの下には、小さなネコらしき姿がもぞもぞと動いているように見える。

「見えないけどさ、絶対人間には見せない顔を、ネコには見せてる。それがさ。腹が立つ」

 バーテンは身動きせずに、じっとネコを見下ろしている。


「きっと見たこともないような優しい笑顔とかでネコ見てるんだよ?僕なんか睨まれたことしかないのに」

 うっかり浅井は笑ってしまった。この前の二人の様子では、きっとそうなのだろう。

「あなたたちってどういう付き合いなの?バイク仲間かと思ったら違うってバーテン君は言ってたし・・・」

「バイク仲間?僕バイクなんか乗らないよ。僕らは高校が一緒だったの。ただこっちに来るまでほとんど口きいたこともなかったけど」

「同級生」

「そう。横浜からこっちに進学するってそう多くないからさ。だから嬉しいじゃない?普通?知り合いがいるってさ?でも浩一はああなんだよ」

「面白いね」

 浅井が笑った。

「面白くない!だからね、浩一研究が僕の最近の趣味なんだよ。最近の研究の成果が、バイト前にあそこでネコ見てるってことだけなんだけど」

 やはり浅井は、さらに笑った。

「笑い事じゃないんだよ、浅井さん。こっち来てからの付き合いはもう1年越えてるのに、僕何にも知らないんだよ。浩一は僕のことほとんど知ってるのにだよ?」

「だって君島君、酔っ払って電話するのがあのバーテン君なんでしょ?そりゃもう何でも知ってておかしくないわよ」

 やはり笑いながら浅井が言った。

「ああ!それ言わないでよ!僕だって浩一の弱味をつかみたいのに・・・」

 君島が頭を抱えた。

「なんとかして、調べ上げるんだ。だって、親とか兄弟とか友達とか、全然わかんないんだよ。趣味がバイクとネコってだけ。悔しいよ」


 すっと、浅井の頭が冷えた。


「あれでいいじゃない。ネコ好きで寡黙なバーテン。隠してることなんて彼の一部でしかないわよ」


 君島がちらりと浅井を見上げた。


「よくない。僕は浩一と一生友達でいようと思ってる。だから、一部だろうと二部だろうと知っておきたい」

「隠していることを暴いたって、彼を知ることにはならないわよ。外側の出来事を知ったって彼の内面なんかわからないんだから」

「それでも知りたい。言ったでしょ?一生付き合うつもりなの。それには必要だと思わない?」

「思わない」


 君島が浅井をじっと見詰める。そして首を傾げてため息。

「多分、浩一もそう言うんだ。似てるんだよね、浩一と浅井さん。そのハードボイルドなしゃべりかたとかさ。

 浅井さんも何か、隠してる?」


 何も言わずに君島を見つめ返す。



「何がそんなに怖いのさ?」

 君島がそう言った。


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