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君島が立ち上がって浅井の前に立ち、まだ口を開けたまま目をまん丸にしている。
「ど、どうしたの!びっくりした!何、何で?あ、でも、似合う!すごく似合うよっ!うわぁ、びっくりしたぁ!」
君島が頬を染めて驚いている。
「全然わかんなかったよ!って、あれ?会社は?」
「ん、さぼっちゃった」
「えっ!それでこんなに変えちゃったなんて、なんで?何かあったの?」
君島の顔が一瞬で心配そうな表情に変わる。
……嬉しい。
心配されるのが嬉しくて、やはり笑顔になる。
「ちょっとね。むしゃくしゃしたの。だから思い切ってね」
「もしかして彼氏と何かあったの?」
鋭いというか、まずそう考えるのが普通よね。
「あったというかなかったというか、多分ね、彼とは何もないの」
「ん?」
「違ったみたいだから、もういいのよ。切り替えるためにね」
「そうなの?僕はお似合いだと思ったんだけどなぁ……」
そうだったわね。
私たちを最初に認めてくれたのが、あなただった。
「でも、しょうがないんだね。あなたはもう割り切ってるんだね」
「え?そう思う?」
「うん。花の香りがするから」
「え?」
「香水だよね?だって今まで香水の香りなんかあなたからしたことないもん。
落ち込んでたり悲しかったりしたら、わざわざ香水なんか付けないかなぁって思っただけ」
浅井は目をくるりと回して考えた。
選んだ香水を、実際にお試しください!と店員に手首に吹き付けられて、少し首筋にも擦り付けた。
それだけのことだったのに、そういう受け取り方をされることが面白かった。
これは先輩の香りだから多分それも間違いではないのだと、やはり笑顔で頷いた。
「ところであのバーテン君は元気なの?」
すると君島がわずかに言い澱んだ。
「ん?浩一?うん……。あれから会ってないけど……」
そして君島は体の向きを変え、腕を伸ばして何かを指差した。
「あそこ、見える?木の下のベンチに一人で腰掛けてる人、いるよね?あれ、浩一」
浅井も顔を向けた。