6
浅井は母校に向かっての道を久しぶりに歩いた。
多分ここを歩くことももうない。
私はまた、逃げるから。そう考えながら。
しばらく歩くと、大学のグラウンドがある。
その手前に小さな公園があった。
夜になったらジガーレイに行こうと思っていた。
バーテンに領収書をもらうのだ。
それは君島に会えるフリーチケットだと、あの時思った。
多分もう彼らにも会えなくなる。
私はまた、逃げるから。
ため息をついて公園に入った。
俯くと首が寒い。
肩をすくめてぐるりと公園を見回して、
小さな子供とお母さんがブランコで遊んでいて、その向こうにベンチがあり、
そのベンチに君島が座っていた。
浅井は目を見開いて、しばらく目を疑った。
君島はじっと大学のグラウンドを眺めていた。
浅井はその横顔を口を開けて見つめた。
この街は決して小さくはない。それなのにこの子には何度偶然出会うんだろう。
ん?違うかな?最初と、今回だけかしら?でも何度偶然会っても怖くなんかないわ。
私、この子好きだし。でも好きだと言うと嫌われるから言えないんだけど。
そう思い出した時に、吹き出した。
それを聞いて君島が振り返った。
そして首を傾げてしばらく浅井を見つめた。
あまり長いこと見つめるので気付いた。
私だとわからないんだ!
浅井は可笑しくて、笑いながら訊いた。
「君島君、もう三日酔いは大丈夫?」
君島は目を丸くしてしばらく考え、あ、と言ってから、
「あっ……!え?浅井さんっ?!」
と声をひっくり返した。
それが可笑しくて浅井はさらに笑った。