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JOY  作者: co
第8章・白とシルバーの店
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 白とシルバーでほぼ統一された清潔感のある店内。

 さっきお兄さんが大声を上げたせいで席に案内された浅井が他の客に一瞬注目された。

 そしてさっきのおじさんが後ろに立ち、にやりと笑って、さてどうしましょう?と言った。

「ストレートにして、どこまで切ります?セミロングとか肩までとか首が出るくらいとか」

 鏡に映ったおじさんが男子としては肩に掛かるロン毛だったので、

「あなたより短く」

 と浅井は短く頼んだ。

「少し染めませんか?」

「少しなら」

「はいっ!かしこまりましたっ!」

 また嬉しそうに笑って、そこを離れて準備に掛かった。

 横を通り過ぎる時にネームプレートがちらりと見え、「大森」と書いてあり、浅井はまた、んん?と考え込んだ。


 まず、伸ばし続けた長い髪を、肩あたりまで一気に切った。

 それからパーマをかけ、色を染め、カットという手順。

 パーマや染色の待ち時間に飲み物サービスということで、コーヒーか緑茶を選べますがと訊かれ、お茶を頼んだ。

「お茶のリクエストって結構珍しいんですよねぇ。せっかくいいティサーバー置いてあるんですけどね」

 と聞いて、お茶を噴き出しそうになった。


 お客様だ!そうだここ、加藤設備の社長に無理行って出てもらった美容院じゃない!!

 私が電話で話したお客様が大森さんだ!この美容師さん……!


「じゃちょっと時間置きますね」

 と大森さんが離れていった。


 そうか。ここもお客様だったか。ティサーバーは、壁際に設置してある。加藤社長が置いていったのね。

 小柄で色黒で強面の加藤社長を思い出して、もう社長とも会うことはないんだなぁと思った。

 10年。加藤社長にはずいぶん無理を言ってきたと思う。ありがたかったなぁ。

 浅井は少し、笑った。


 さすがにパーマとカラーとカットと、何度かのシャンプー・ブローで長時間かかった。

 ずっとその作業を見ていて、自分が変わっていく様を見ていたのに、最後の仕上がりには驚いた。


「もう少し、色軽くしたかったなぁ……」

 大森が呟く。しかし浅井がこの色だと頑固に譲らなかったのだ。

「しかし、大変身ですよ!お友達もきっと分からないんじゃないですか?」

 そうだな、と浅井も思った。

「お客さんは首が細いからショートの方が似合いますよ。あとは大きめのイヤリングと香水ね。必需品」

 浅井が頷いて立ち上がった。

 店内の客にまた注目された。

 全身が写る鏡を見て、うん、確かに私じゃない、と浅井も思った。


 メンバーズカードを勧められたが、もう引っ越すので、と断った。

 残念そうに大森が、ガラスのドアを開けていつまでも見送ってくれた。


 大きめのイヤリングと香水。

 先輩。こんな私はどう?

 浅井はガラスに映る自分を見て、先輩に問いかけた。

 それから空を見上げた。


 首が寒い。

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