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JOY  作者: co
第8章・白とシルバーの店
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 翌朝薔薇の匂いの消えた浴槽を洗い、久しぶりに入浴した。

 久しぶりに食事も作った。

 久しぶりに鏡を見て、やつれた自分に驚いた。

 私が食べさせなきゃ死ぬね、あんたは。そう鏡の中の自分に言った。

 死なないけどね、そう簡単に。

 大丈夫。私が食べさせるから。

 先輩が守ってくれないんだから、私が守ってあげるわ。

 

 こんなふうに自分は立ち直ってしまう。

 狂うこともできない。

 いいんだ。それならそれで生きていく。

 独りだって生きていく。

 先輩を抱えて生きていく。


 だけど今日、先輩の好きだった私の長い髪を切る。

 私は独りで生きていくから先輩にも変わってもらう。

 もう、先輩の好きだった私じゃないからね。

 だって先輩だってもう私を守ってくれないからね。

 お互いそうやって変わって、残ったものがきっと大事なものなんだ。


 変わった二人の過ぎ去った過去なんてもう誰にも解らない。

 だから誰にも先輩のことは話さない。

 誰とも話さない。


 先輩をもっと奥深くに沈めるために、浅井は自分を変えることにした。

 そしてまた全てから逃げる準備を始めようと思った。

 会社も辞め、ここも引越し、全部捨てる。

 先輩以外。



 それからふと、なぜ大沢があそこで止まったのかと疑問が湧いた。

 彼も酔っていたし、自分も薄着だったし、簡単だったはずだ。

 思い出して浅井は少し震える。

 なにが彼を止めたんだろう。

 部屋をぐるりと見回した。

 目についたのは、床に落ちている赤い塊。


 あれだ。


 浅井は確信を持って頷いた。

 あれを見て、大沢君は止まった。


 浅井は、ため息をついた。

 それで許せるものではないけれど、あれで衝動を止めた大沢が少しいじらしい気がした。

 それでも許すつもりはないけれど。

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