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三日断食したぐらいで餓死はしない。
そのぐらい、浅井はよく知っている。
毎晩大沢が外から呼びかけてくる。
毎晩毎晩。
とうとう明日はドアを蹴破ると言っている。
浅井は餓死どころか熱も下がり回復傾向にあった。
丈夫な体だ。
体の回復と反比例して心が沈んでいった。
寂しくて胸が痛い。
誰もいない。
先輩がいない。
だから餓死したいのに、できない。
大沢君は許せない。
それなのに毎晩外から呼びかけられて、浅井は嬉しかった。
心細かったから。
誰でもよかった。
誰かにいて欲しかった。
だけど大沢君は許せない。
許すわけにはいかない。
それなのに明日踏み込まれたら、拒絶する自信がない。
先輩じゃないのに。
あんなことした大沢君を許せるはずがないのに。
それなのに。
耐えてきたのに。
これまでだって耐えてきたのに。
大沢君さえいなければ耐えられるのに。
浅井は頭を振って、決めた。
明日は外出する。
大沢君には会わない。
勝手に踏み込め。
私は消える。