8
朝まで風呂場にいて、浅井は風邪をひいた。
当たり前だ。そう簡単に凍死なんか出来ない。
何度もチャレンジしている。できた試しなんかない。
朝鼻声で会社に病欠の連絡を入れた。それっきりベッドの上。
これなら餓死できるか?無理。できた試しはない。
先輩のところには行けない。
先輩のところには行けない。
独りだ。
独りだ。
独りだ。
熱があるから心細い。
こんな時には絶対人に会わない。
頼ってしまいそうだから。
先輩じゃないのにすがってしまいそうだから。
浅井はベッドの上で寝返りをうつ。
独りだ。
私は独りだ。
チャイムが鳴った。
誰かがドアを叩いた。
そして「浅井さん!」と叫んだ。
大沢君だ。
絶対嫌だ。
絶対会わない。
「浅井さん!大丈夫ですか!」
すぐそこにいる。
寂しい。
でも絶対会わない。
先輩じゃないのに
「風邪ですか、浅井さん!」
やめてよ。
昨日私に何したの?
絶対嫌だ。
苦しい。
寂しい。
先輩じゃないのに。
「浅井さん!」
寂しい
浅井は耳を塞いで布団を被った。
次の日も大沢は浅井の部屋を訪ねた。心配なのでお茶とおにぎりを買って、またドアに向かって呼び続けた。
前日と同じように返事がなく、買って来たものはドアノブに掛けて、せめてこれだけでも食べてくださいと言って帰った。
次の日、それはドアノブに下がったままだった。
ドアを叩いて、叫んだ。
「明日、ここ開けてくれないんだったら、蹴破るからね!」