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JOY  作者: co
第7章・赤の塊
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 大沢の両手から力が抜けた。

 それを見逃さず、浅井がその両腕を両手で跳ね上げて大沢の体の下から抜け出し、転がるように部屋の隅まで這っていった。


「……俺、」

 大沢が逃げた浅井に目を向けた。

 浅井はがたがたと震えたまま体を丸めて壁に寄りかかっていた。

「浅井さん、」

 大沢が手を伸ばしてきたので、浅井はとっさに座り込んで両手を床について、その間に頭をつけた。

 そして震える声で言った。


「お願いします。帰ってください」


 小さく丸くなって土下座をしている浅井の体が、目に見えるほど震えている。

 その悲壮な姿に耐えられずに、大沢はドアを開けて外に出て、そこでずるずると腰を落として頭を抱えた。



 赤い、マフラーだって……?

 頭がガンガンして大沢はそれ以上考えられない。

 酔っているせいでそれの何が衝撃なのかもよくわからなかった。


 赤、なら俺の色、なんだろう。今日だって赤のブルゾンだ。

 あれは、クリスマスの準備……。俺へのプレゼント。

 だから赤のマフラー。


 大沢が顔を上げた。


 その浅井さんに、俺は何をしようとした?


 嘘だろ。なんでだ。


 どうしても考えがまとまらない。


 しばらくして後ろで部屋の鍵が掛けられる音がした。


 そうだ。俺は浅井さんに拒絶された。それはでも、俺のせいだ。それだけはわかる。


 謝るしかない。俺のせいだ。


 頭を振って、立ち上がった。


 換気扇から花の香りが薄く匂っている。

 浅井の体の匂いと同じだと気付き、大沢は激しく後悔した。

 浅井さんはまさか俺がこんなことするなんて思いもせずに、風呂に入ってたんだろうと思った。


 俺は、許してもらえるんだろうか。


 自己嫌悪と絶望で大沢は立ちすくんだ。




 震える体をやっと自分の意思で動かせるようになり、浅井は立ち上がろうとしたが震える足が体重を支えない。

 這って玄関まで行き、シューズボックスに手を掛けてそれを支えにドアの鍵を閉めた。

 まだ足が立たない。

 浅井はそのまま這って風呂に向かった。


 あそこに行けば、まだ薔薇の香りが残っている。

 先輩が残っている。

 先輩が待っている。

 そして浴室のドアを開けた。


 薔薇の香りは残っていた。

 だけど、クリアになった浴室には誰もいない。

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