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こんなに遅い時間に、自分も風呂上りなので浅井はドアを開けるつもりはなくインターホンを取った。
「はい」
「あの、俺です。大沢です」
浅井は身構えた。
大沢が連絡もなくここに来るのは初めてだし、これまでのことで、君島のことで、何より部長に言われたことで、大沢とはもうこれ以上続けられないと浅井の中ではもう結論が出ていた。
「何の用?こんな遅い時間に」
浅井は低い声で訊いた。
「あの、俺、……」
声が遠くなった。
「何?」
「すいません……あ、……血が」
「え?」
「怪我、してて、……血が止まらないんです」
「えっ……!」
浅井は慌てて編みかけのマフラーを落とした。
それに構わず慌ててティッシュの箱と救急箱を抱えて、玄関の鍵を開けた。
開けたと同時にドアノブが勢いよく外に開かれ、大沢の足が踏み込んできた。
「ケガって、……」
心配気に見上げた浅井を、大沢は薄笑いで見下ろした。
「血……って」
酒の臭いがした。
ティッシュと救急箱が浅井の手からこぼれた。
そして全身から血の気が引いた。
大沢の両腕が浅井の体を締め付けた。
ドアを閉めたかった。それは無理だった。
せめて部屋の中に逃げようとした。それも出来なかった。
大沢の両腕が、肩と腹に巻きついて身動きが取れない。
それ以前に体に力が入らず、立っていることさえ難しい。
大沢は後ろ手でドアをしめ鍵をかけ、浅井の体を抱きなおし、その場に押し倒した。
そして上着の裾から手を差し入れて、服を脱がしにかかった。
浅井は恐怖のあまり声も出せずに体を固く縮めることしかできない。
なんとか固く握った拳で大沢の体に抵抗するが、大沢の手は風呂上りで上着を一枚しか着ていない浅井の体をいとも簡単に這い回った。