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JOY  作者: co
第6章・ピンクの球
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11

 薔薇の香りのお湯が排水口に全て吸い込まれるまで、浅井は髪を拭きながらじっと見ていた。

 もう充分年月が経ち、先輩の思い出とも折り合いがついている。風呂から出るコツは掴んでいた。

 実体がなくても、いつも同じセリフでも、自分を大切にしてくれた先輩の記憶を抱いて暖かく眠りにつく。


 ぽかぽかした体で寝室に入り、こたつの上の編みかけのマフラーに気付いた。


 ……もういらないね、これ。


 編み物は好きだから編んでいる時は楽しかった。

 でももう解いてしまおう。

 もう、いらないものだ。


 そういえば先輩にも一枚だけセーターを編んだ。マフラーも一本。二つだけ。

 冬が二度しか来なかったから。


 え?これ、編んだの?浅井さんが編んだの?本当に?すごいな!すげ~嬉しい!


 思い出して、浅井は笑った。

 笑いながら、もう思い出したくない、と思った。


 思い出すたび、色が薄れていく。先輩が遠くなる。

 先輩なしで生きていけるとは思わなかった。

 先輩のことを思わない日がくるとは思えなかった。

 それでも月日が流れて自分は生きている。

 生きていることが先輩の望みだと分かっていても、それを裏切りだと感じる自分の気持ちも消えない。


 生きているだけで、時間が経つだけで、先輩が薄れていく。

 こんな日がくるとは思わなかった。

 そう思っていたことすら忘れている。

 それは裏切りでしかないと浅井は思う。


 自分は毎日、先輩を裏切って生きている。



 編みかけの赤いマフラーを握って、そんな自責の思いに俯いてため息をつくと、部屋のチャイムが鳴った。

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