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JOY  作者: co
第6章・ピンクの球
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 大沢の腕を両手で掴んでしなだれかかったまま、栗尾はホテルへの通路を間違わずに進み、フロントを素通りしてエレベーターの前で止まってボタンを押した。

 チェックインは済ませてあるんだな、と、大沢は訊こうと思ったがやめた。

 酔っているせいなのか、栗尾の態度にいらいらしている。何が、とまでは突き詰めていないが、なんとなく腹が立っている気がしている。

 無言のままエレベーターに乗り、47階で降り、そこからすぐの部屋を栗尾がカードキーで開けて先に入った。


 そして電気をつけないまま窓際まで走り、大沢を呼んだ。

「早く来て!下を見て!」

 何が見えるかは分かっていたが、想像以上に美しい街の夜景だった。あちこちのクリスマスイルミネーションがさらに光を増しているせいもある。

「素敵よねぇ……」

 栗尾が大沢の腕にもたれかかった。

 大沢はしばらく夜景に見惚れていた。

 栗尾がしびれを切らして、ねぇ!と大沢の腕をひっぱりその顔を向けさせ、そして爪先立ちをしてその首に腕を回し、キスをした。

 ああ、と大沢が栗尾の腰に手を回そうとするとそれをひらりとかわして、栗尾が笑った。


「まずはお酒なんでしょ!バーコーナーがそこにあるわよ!」

 栗尾の指差した先の棚には、ミニチュアコレクションのような酒のボトルが並んでいる。

「それか、ビールにする?」

 栗尾が手馴れたように、棚の横の扉に内蔵された冷蔵庫を開けてビールを取り出してみせた。

 それでいい、と大沢が手を差し出すと、栗尾がプルトップを開けて持ってきた。

「どうぞ」

 とまた接近して爪先立ちをしてキスをして、またひらりと離れて笑った。


 大沢は、からかわれているようでやはり腹が立った。

 だからまた窓を向いて夜景をみながらビールを飲んだ。

 すると今度は、背中に抱きついてきた。振り向くとまた逃げた。


 さすがに、怒りが顔に出た。それを見て栗尾がさらに笑って、

「私先にお風呂に入るわね!酔ってそのまま寝ちゃうと大変だしっ!」

 そう言いながら上着を脱ぎ始めた。そしてスカートに手をかけた。

「なんて!ここじゃ全部脱がないって!あはは!」

 そう笑いながらバスルームに消えた。


 夜景を見下ろし、ビールを一気に半分飲む。

 はぁ、と一息ついて口を拭い、怒りを静めようと試みた。


 酔ってるんだ。腹なんか立てるな。栗尾のペースになんか巻き込まれない。

 俺は俺だ。

 俺のペースでやる。


 そしてビールの残りを一気に飲み干した。


 この夜景。こんなに小さい街であんなに小さな会社で、小さいことでガタガタして。

 俺はどんだけ小さいんだ。

 

 てか、そんなことを忘れさせる高さだな、ここは。

 俺は全てを見下ろして酒飲んでんだな。


 全てが俺の下にあるんだ。


 そう思いついて、大沢は笑い、またビールを一本冷蔵庫から出した。




 浴室では栗尾が、ラベンダーのバスソルトでゆっくりと湯に浸っていた。

 ちょっと挑発したから、案外待ちきれなくて大沢君、ここに飛び込んで来ちゃうかも、と楽しみにしている。

 そうじゃなくても楽しみが一つある。

 あの話を、今夜絶対教えるの。

 あの美しい話を、汚してしまおう。

 一言でいい。私が詳しく知ってるのもおかしいものね。


 ねぇ、あの人、浅井さん?

 高校生の時、集団レイプされたんですって。可哀想ね。私だったら生きていけない。

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