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友人たちとも浅井から連絡を絶った。
同情されてありきたりの慰めの言葉で傷つけられる自分を守りたかった。
そしてその姿を友人に知られたくなかった。
浅井のために、浅井のことを思っているからこその言葉だとわかっていた。
だからこそ、浅井を傷つける言葉しか選べない友人たちとも縁を切った。
それを友人たちに気付かれたくなかった。
あなたの善意が私には凶器だと、優しい友人たちには気付かれたくなかった。
あの事故で私は不幸になんかなっていない。
先輩のせいで不幸になんかなっていない。
短くても先輩と一緒にいられた時間は私を生涯支えてくれる。
私はその証明をしなければならない。
先輩のために。自分のために。
他の誰かと幸せになれるなら積極的にそうする。
しかしそれよりも先輩を思い出している時間の方が幸福だから一人でいるのだ。
泣かずに平然と自立することがその証明だと思った。
誰にも邪魔されずに二人だけの記憶を薔薇の香りで再現する。
どんなに泣いても薔薇の香りが先輩のかわりに包んでくれる。
昔はお湯が冷たくなるまで出られなかった。
先輩のいない現実に戻りたくなかった。
ずるいなぁ先輩。
私が死にたかった。
私も死ねばよかった。
だってこんなに苦しい。
どうせ死ねないなら、どうせ生きていくなら、一緒に二人でずっと生きていきたかった。
こんなに苦しんでる自分を見たら先輩もきっと苦しいだろうな、と思うようになったのは事故から何年も経った後だ。
先輩は私を大事にしてくれたからね。
浅井は涙を一筋流した。