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JOY  作者: co
第6章・ピンクの球
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 約束の6時前に大沢は駅前のど派手なイルミネーションを眺めながらタバコを吹かしていた。

 周囲はカメラや携帯をかざした女子やカップルだらけだ。男一人で立っている場所ではない。


 どうして浅井さんと見にこなかったんだろうな、と大沢はぼんやり考えた。

 そして答えがすぐ出た。

 たった一度のデートは場所が違った上に夜までは一緒にいなかった。

 はぁ、と煙を吐いて灰皿でタバコを潰し、見ておけばよかったなぁと後悔した。

 多分、もうチャンスはない。


 それから首を振って考え直す。

 違うだろ。浅井さんは俺が思ったような人じゃなかったんだ。そうだろ。

 そして上を向いた。

 どうせあのチビやバーテンなんかと見に来たりするんだろ。俺じゃない。


 しばらくして、高く響くヒールの音が迫ってきた。

 来たのか?と大沢が振り向こうとすると、

「わっ!!」

 と脅かそうとするような大きな声を発しながら栗尾が腕に抱きついてきた。

「待たせちゃった?」

 覗き込むような上目遣いで栗尾が訊ねる。

「いや」

 と答えながら大沢が腕を解こうとした。中学生かよ、と思いながら。

「まずは食事にしよ!なにが食べたい?」

 小首を傾げて栗尾が訊いた。

 なんでもいい、と答えながら、こんなもんだよな、と大沢は思っていた。

 髪の先から足の先まで手入れの行き届いた、ファッションにしか興味がないような女子。

 今までそういう相手としか付き合ってこなかったはずなのに、なんで浅井さんに声掛けた?

 大沢は首を捻った。どうかしてたんじゃないか?

「なんでもいい?スペイン料理は?」

「スペイン?俺こんな格好だけど入れるのか?」

 大沢は赤の派手なブルゾンにカーゴパンツのカジュアルな格好だ。

「大丈夫よ。スペイン料理って言っても家庭料理風だから、堅苦しくないし」

 それならそれでいい、と言うと栗尾は大沢の手を引いてイルミネーションで飾られたビルに向かって歩き出した。


 ヒールの音が響く。

 そうだ。浅井さんはヒールが低かった。背が高いせいもあるだろうけど。

 それにバッグ。栗尾の小さいバッグには一体何が入れられるんだ。

 浅井さんのでかいバッグにはきっと仕事に使うものも入ってたんだろう。

 そういうタイプとは付き合ったことがなかったのに、俺は何を考えてたんだ。


「すごいね、イルミネーション!」

「そうだな」

 そうだよな。こんなもんだよ。


 何度もそう繰り返しながら、大沢は結局浅井のことを考えている。



 そして同じように、栗尾も浅井のことを考えていた。浅井の生まれ故郷での調査報告が届いたのだ。

「ねぇ、あの人。浅井さん?北陸出身なのよね。肌きれいだもんね」

 またしても美しい物語を掘り出された。

「結構いいお宅の優秀なお嬢様?今どき男女交際禁止だったのを、隠れて野球部のキャプテンと付き合ってたんですって!ホントに見かけによらない人よね!今日自慢してたんだけどっ!」

 悲劇に終わっているのに、悔しい気持ちが抑えられない。

「自分で言ってたんだけどね!本当は東大合格できたんだって!わざと落ちてこっちに来たのよ!彼が先にこっちの大学に来てたからですって!」

 自分はこれほど劇的な恋愛をしていない。


「聞きたくねぇよ。そんな話」

 大沢が吐き捨てた。

「そうよね!どうでもいいわ!あんなオバサン!」

 栗尾が大沢の腕に絡みついた

「せっかくの食事が不味くなるわ!」


 二人でエレベーターの前で立ち止まり、話題を失って沈黙した。

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