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JOY  作者: co
第6章・ピンクの球
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 親とは縁を切ったつもりだった。


 先輩を亡くした時、浅井がまだそれを受け入れられずにいた時、浅井がまだ入院していたその枕元で、母はまず先輩を罵った。



 死んだ人を悪く言ってもしょうがないけどね……。恥知らずな真似してくれたわ。

 嫁入り前の娘を本当に傷物にするとはね。あんたもあんたよ。町中で噂になるわ。恥ずかしい。



 浅井はベッドの中で体を固く丸めて自分を抱きしめ、息を止めて耐えた。体が震えていることを知られないように。

 声を失っていた浅井に反論はできなかった。そうでなくても、そんな侮辱を晴らせる言葉なんか知らなかった。


 絶対許さない。浅井は唇を噛んだ。涙が出ないように。

 絶対許さない。許す必要なんかない。



 親なんかいらない。先輩だけでいい。

 他に、なにもいらない。



 そして浅井は退院した後に勝手に大学をやめ、声が戻ってから仕事を探し、決まってから引越しをし、親を捨てたつもりでいた。

 親も浅井を捜そうとはしなかった。

 それを不審にも思わなかったのは、浅井が親のことを一切考えていなかったからだ。


 それが、会社からの電話一本のせいだったと今日知らされた。


「不幸な娘なので」


 どうしてこの親はこれほど的確に娘の傷を抉るのかと、浅井はぶつけようのない怒りと絶望を同時に噛み締めている。

 不幸なものか。私は不幸なんかじゃない。そう自分に言い聞かせてやってきた10年だ。


 それなのにこの10年、結局親の監視下にあったようなものだ。

 一人で頑張ってきたつもりなのに。

 そして自分の未来も自由ではない。



 はぁ、と、寒い夜空に白い息を吐いた。


 それからやっと、大沢のことを考えた。


 まだ始まったばかりでここまでの障害が入るなんてよほど縁がない。

 そう思うしかない。

 今ならやめることもそんなに難しくないだろうと浅井は考えた。

 お互いにお互いのことをまだ何も知らない。それならこのまま終えても何も変わらない。


 きっと大沢君もそう考えているだろう。

 会わなくなって、電話もなくなって、何日経つ?それすら数えていない。なにしろ私はずっと君島君のことばかり考えていたのだ。


 このまま終えるのが一番いい。


 浅井は俯いて家路についた。

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