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「一万……って、お金?!お金取るの?浅井さんから?!やめてよ浩一!なんてことするんだよ!」
君島が表情を一変させて、バーテンに怒鳴った。
「俺がボランティアでこんなことするわけないだろ」
バーテンは表情を変えず、低い声で言い捨てた。
君島は次に浅井を向いて、同じ調子で言った。
「だって、浅井さんだって、浩一のこと知らないんでしょ?それなのになんで、」
浅井もバーテンを見習って、冷静に答えた。
「知らないからお金で乗せてもらったのよ」
「だってそんな、僕が行くって言ったのに、」
また君島の表情が変わる。今度は自責に眉をひそめた。
浅井が少し笑った。この顔を利用しようと思いついた。
「あ、そうね。この一万円の出費は君島君のせいだわね」
君島が口を噤んだ。
「一万円分、君島君は私に負い目があるのよ。いい?」
「負い目って……?」
「あのね。あなたから勝手にサヨナラなんて言わせないわ。いい?」
「……」
「だって私のせいじゃないでしょ?私が悪いんじゃないもの。それなのに勝手なことされちゃ困るわ。わかった?」
「……」
「また電話するし、とらなかったらここに来るから」
顎を上げて、笑顔で君島を見下ろした。
君島は唇を尖らせて俯いた。
「うん。これで用は済んだわ」
浅井が笑って見上げると、バーテンが頷いて黄色のヘルメットを渡した。
「君島君、これ借りるね」
「浅井さん……」
君島が呟いた。
「バイクの後ろでも気をつけて乗ってね」
バーテンが振り向かずにまた言い捨てた。
「そのためのヘルメットだろ」