10
バーテンは冷徹な表情で君島を見下ろしている。
見下ろされている君島が、涙をためて真っ赤な目を浅井に向けた。
「ひどいと思わない?」
思う……。と思いながら浅井が再びバーテンを見上げた。
そしてバーテンが表情を変えずに、口を開いた。
「昨日もバイト明けに実験の続きがあって、部屋に戻ったのが朝方。
風呂入って寝ようとしたら、こいつから酔い潰れてるから迎えに来いって電話がきて、まっすぐ立つこともできないこいつをバイクでここまで連れてきた。
来たもののここは足の踏み場もないくらいの汚れ様で、さっきまでかかってここまで掃除した。
俺は一睡もしてないんだ。これから学校だしな」
すごい!君島君、それはかなりの迷惑かも……!
ていうか、そこまでするんだ?バーテン君……!
「うー……。思い出したら気持ち悪い……」
君島が再びベッドに倒れた。
「まだアルコールが抜けてないから絡むんです。ほっとけばいいですよ」
そう言いながらバーテンは君島に目もくれずに勝手にクローゼットに手をかけた。
「君島。ヘルメット借りるぞ」
扉を開くと、ばさばさと物が落ちてくる音がした。
バーテンがそれを見下ろして言った。
「お前、クローゼットできのこ栽培してんのか」
「ヘルメット……は、洗面所だよ……。なんでそんなの……」
「洗面所?」
バーテンがさらに眉間のシワを深くして君島を見下ろした。
「うん。いつでもきれいにしてる……」
あほか、とバーテンがつぶやきながら洗面所に向かった。
「ヘルメットって……。なんでさ?」
君島が訊いたが、バーテンはすでにいない。
「なんでかな……」
君島が浅井を見上げた。
「多分、私用だと思う」
浅井の返事に、君島がしばらく反応しなかった。
バーテンが黄色いヘルメットをぶらさげて戻ってきた。
「あんな湿度の高いところに置いておくと内装がやられるぞ。どうでもいいけど」
「ヘルメット……どうすんの?」
君島がぼんやりとバーテンに訊いた。
「借りる」
「だから、なん……あっ!!!」
また君島がガバっと上半身を起こした。
「バイクで?浩一の後ろに乗ってきたの?浅井さん?」
「うん。そう言わなかった?」
「言ってない!聞いてない!え?乗せたの?浩一が?」
君島が驚いてバーテンに顔を向けた。
バーテンは指を一本立てた。
「往復一万円で請けた」