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むくんでまぶたも腫れて子供のようなその顔に、Tシャツから覗くアンバランスな太い筋肉質の腕。
「え?あれ?なんで?僕、」
その高い声からは想像もつかない土曜日の獣のような姿。
「なんで、来たの?」
でもやはり寝起きの子供のような、今にも泣きそうな情けない君島の顔。
「返しに来るって、言ったじゃない」
腹が立ってきた。
「待ってたのよ。ともだちだって、言ったわよね?」
腹が立って、涙が出そうだ。
「言いたいことだって訊きたいことだってあるのよ。それなのに、来てくれないなんて」
涙が出そうだ。
浅井はそれ以上続けられずに俯いた。
「だってさぁ……」
君島が呟いたので浅井も顔を上げると、君島はとっくにサメザメと泣いていた。
「僕だって好きでこんな顔なんじゃないのに」
あ。
と、浅井の涙が引っ込んだ。
「僕のせいじゃないのに」
君島の目からはぽろぽろと涙が落ちる。
「いつまでもこの顔で差別されるんだ」
美しい泣き顔なので、悲しさが倍増されている気がする。
「いつでも、ばかにされるんだ」
こんなにも美しい子に涙を流させるなんて……。
浅井もつい慰めようとして、君島く、まで言いかけた。
それと同時に、低い掠れ声が響いた。
「まだ言ってんのか。いい加減正気に戻れ。鬱陶しい」
それを聞いて君島が枕に顔を埋め、一層高い泣き声で言った。
「ひどいでしょ!全然いたわってくれないんだよ!こんなに友達が泣いてんのに!」
「ともだちじゃない」
「こんなことまで言うんだよ!ひとでなし!」
「なんとでも言え。俺は充分迷惑をかけられた。もうたくさんだ」
え……。それはひどいんじゃないですか?
浅井はどきどきして、いつの間にか後ろに立っていたバーテンを覗き見た。