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「嘘」
「すご」
「まじ?」
コンビニ向かいのビル4階窓には、全社員の顔が張り付いている。
そして全員、片言の感想を述べた後は、言葉がない。
あまりに衝撃的だった。浅井はそんなキャラクターではないはずだったのだ。
コンビニで男と待ち合わせという段階から既に衝撃的な話ではあったのだが。
何より、美しい絵だった。
少し長めのバーテンの髪がなびき、自慢するだけある浅井の形のいい脚が膝上からむき出しで、戦闘的なフォルムの緑の大型バイクが、クルージングしている車たちの流れをかき分けて飛んでいった。
まるでドラマか映画のワンシーン。
たちまち消え去ったからなおさら強くそう感じる。
こんな展開になるとは想像もしていなかった。
そして今後、どう展開するのかも全く読めない。
こんなにも身近に、突然こんなドラマが発生して、誰もが浮き足立っていた。
そしてその美しい絵を、目の前で見せ付けられた大沢も呆然としていた。
一昨日君島に蹴られた以上の衝撃だ。
なぜなら、浅井からバイクに乗ったからだ。
浅井がバーテンに、バイクに乗せろと頼んだ。
バーテンは断った。何度か断った。最後まで躊躇った。
浅井がむりやりバーテンのバイクに乗ったのだ。
大沢はそれを、道路を挟んだ向かいから見ていた。
ビルの4階からは、きっとみんなも見ていただろう。
何一つ公表していないのに、ほとんどのことを知っている社員たちもきっと驚いているだろう。
大沢と付き合っているらしい浅井が、大沢を投げ飛ばした男と待ち合わせしているはずなのに、ほとんど知り合ったばかりのバーテンのバイクに乗って走り去った。
いいツラの皮だ。
大沢は、鼻で笑った。
なんだよこれ?バカにしやがって。
踵を返して車に戻る。
来るんじゃなかった。いや、正体がわかっただけマシかもな。
浅井さんがそういう女だとは思ってなかった。
あれが正体なら俺の方からお断りだ。
乱暴に車のドアを閉めて、急発進した。