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「ちょっと~!!!!あれっ!!!!」
「全然偶然じゃないじゃない!」
「なに?浅井さん!なんなの?!」
「どういうこと?なんでバーテンまで?!」
「何か渡してるし?!」
「だから言ってるじゃないの!」
ここまでくると水を掛けているのか油を注いでいるのか栗尾にもわからない。
「若い子が好きなの!若ければなんでもいいのよ!」
真向かいで眺めている大沢も硬直していた。
バーテンだ。
俺の大嫌いなバーテンが浅井さんと話している。
あのチビと待ち合わせのはずなのに。
あのチビでも許せないのに。
どうしてバーテンだ。
どうしてあの何もかも持っているバーテンだ。
「君島、君は?」
驚きすぎて、疑問が多すぎて、浅井はやっとそれだけを口にした。
「三日酔いで潰れてます」
バーテンが即答した。
「三日……」
浅井が視線をバーテンから外して、三日前を思い出す。
土曜日。土曜日から。
私と別れたあの後から飲み続けた?
「だってあの子、お酒弱いじゃないの……」
そして、初めて会った日も思い出した。
あの子、たったカクテル2杯であんなに酔ったのよ。
弱いくせにここまで来れないほど飲んだの?
そんなにも私はあの子を傷つけたんだ。
それを謝る機会も、もうないんだ。
浅井は俯いた。
せっかくできたともだちを、失った。
「うん。弱いんで量は飲んでないでしょう。まだ生きてますから早々死なないでしょう」
頭の上から、低い掠れた声が降って来た。
え?と顔を上げると、バーテンがまだ本を突き出したまま浅井を見下ろしている。
「えっと、あなたは、君島君のともだち?」
「いや。知り合い」
ともだちじゃない?知り合い?
「だって、この本わざわざ代わりに届けにきてくれたんでしょ?」
「二千円で引き受けた」
思わず吹きだした。
文庫本2冊配達で2千円なんて!高すぎる!
笑い出した浅井を見て、バーテンが顔を顰めた。
それを見て浅井が更に笑った。
笑って、体の中の澱んだ気分が吐き出されたような気がした。
そして目の前の、嫌そうな顔で見下ろしているバーテンに、希望を見出した。