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「いや~、俺、あんなにきれいな人だったとは気付かなかったよ!」
浅井がいなくなり、田村が大声で得意気に話し始めた。
「でもキレイって言ってもなんていうか、やっぱりねぇ?」
反論にならない反論で栗尾が話題を遮る。
「だったら普段からちゃんとしろっていうのよね!」
しかしそれを無視してさらに話題が沸騰する。
「そうよね!私も驚いたもの!大沢君がアサイサンって呼ばなきゃ気付かなかったわ!」
大沢と浅井のデートを目撃した事務員。
「そうそうそれと!あの女の子みたいな男の子!びっくりするぐらい可愛いの!」
浅井が会社帰りに君島と喫茶店に行った後をつけた事務員。
「それ。その超可愛い男に、大沢は無様に投げられたってわけさ」
「信じられな~い!ていうか意味わかんない!」
「俺もさ、超可愛いから男だって気付かなくて、それなのに大沢が胸倉掴むからさ、必死で止めようとしたわけよ!」
微妙に田村の演出が加わる。
「それがさ、確か、女みたいな顔して、って大沢が言ったんだよ。それで俺びっくりして、だって女だとばっかり思ってたからさ、それでびっくりしてるスキに、大沢があっさり投げられてたんだよな」
「あら……。すごく可愛いわ」
「ね~。あんな可愛い顔して、あんなに大きい大沢くんを投げるほど強いのね」
「紹介して欲しいわ」
「何言ってんの?あんたたち。だいたいどういう付き合いかわかんないじゃない?」
栗尾が何が何でも話題を切り裂こうとする。
「まぁ、その女みたいな男がこれから来るんだからさ。どういう付き合いかわかるんじゃないの?」
田村が窓を指差した。
「つ~か、男だってだけで問題だけどな」
昼休みは0時から1時まで。
この時間内に君島君を説得できるだろうか。
浅井はタバコの自販機の横で俯いて考えていた。
前の大通りの往来で、太い排気音に気付いた。
その音を覚えていたわけではないのだが、なんとなく目を上げた。
そして目に入ったのは、ライムグリーンの大型バイク。
あのヘルメット、あのブルゾン。
バーテンだ。
バーテンがバイクで通り過ぎていく。
その偉そうで自由そうな姿を見て、凝り固まっていた悩みが溶けた気がした。
『俺が不愉快だったから』
ネコのことをバーテンはそう言った。
そして私もシンプルに強くなろうと思ったはずだ。
そうだ。
私は君島君のともだちになると言った。
彼女たちの一員じゃなく、ともだちになると言った。
彼女たちの一員だったら別れることもあるだろうけど、
私はともだちなのよ。
あなたのともだちになる資格だって充分だったじゃない。
うん。また、絶対会う。
絶対ともだちはやめないわ。
浅井は何度も頷いた。