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JOY  作者: co
第4章・枯葉の公園
41/130

10

「大沢君!」

「大沢!」

 浅井と田村の二人が同時に叫んだ。

 胸倉を掴まれた君島が店外へと引きずり出される。


「その顔で」

 大沢を見上げる君島の顔が、少女のように可愛い。

 今の大沢にはそれすら憎い。

「その女みたいな顔で、油断させるのが手か?」


 まだ二日酔いからはっきりと覚めない大沢は、この状況にも冷静な視線で見上げる君島を疑問には思わなかった。

 そしてたった今大沢が口にした言葉は、君島への最大の侮辱だった。


 二人の体格差を考えれば、これはただの卑怯なリンチだと、浅井と田村は慌てて止めようとした。



 大沢が右肘を後ろに引いて、拳を君島の顔目掛けて突き出した。

 君島はわずかに首を傾げてそれを避け、そして空振りしたその右腕を掴んで上に持ち上げ、大沢の胴を伸ばしてから、軽くステップを踏むように足を合わせ、右ひざを大沢の腹にぶちこんだ。


 大沢が、うぐ、と唸った。

 君島は、掴んでいた大沢の右腕を自分の後ろに引いて、大沢を道路にどさりと倒した。



 わずかの間の出来事で、浅井も田村も呼吸を止めていた。


 ほんの瞬間だった。

 一切無駄のないなめらかな一連の動きに、まるで大沢は練習相手かのように、まるで決まった手順を踏んでいるだけのように、正確に捉えられた。



 ふわりと膨らんだキャメルのコート。

 素直なショートヘアを揺らして、君島が肩越しに浅井を振り向き、微笑んで挨拶をした。



「ごめんね、浅井さん。これで最後にしよう。

 本はね、月曜日にそこのコンビニに持ってくるよ。お昼ならいいよね?」

 キャメルのコートを翻して君島が走り去った。


「君島君!」

 呼んでも振り向かない。

 追いかけようとした。

 しかし、と大沢を振り向く。

 大沢は道路に座り込んでいて、田村に背中をさすられている。

 田村が言った。

「今こいつ、かっこわるいんで見ないでやってもらえますか」

 でも、と浅井が言うと、田村が首を振って続けた。

「俺が送って行くんで、大丈夫です」


「じゃあ、お願いします」

 そう言って、浅井も歩き出した。

 そして走り出した。

 君島に追いつけるんじゃないかと駅まで走った。

 寒い冬の夜なのに、全力疾走したせいで汗が落ちる。

 息を弾ませてホームを全部回った。

 どこにもいなかった。



 大丈夫。

 大丈夫。

 月曜日に会いに来るって言ってた。

 その時にまたきちんと話せばいい。きっとわかってもらえる。



 だって私は、

 大沢君を許せない気がする。



 浅井は荒い息が治まるまで、駅のホームで仁王立ちしていた。




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